木曽の桟

木曽の棧（きそのかけはし）

木曽の棧は、長野県木曽郡上松町を流れる木曽川沿いに位置する、かつて存在した橋の跡です。現在の長野県道長坂沓掛線（旧国道19号）の下にその痕跡を留めており、長野県の史跡、そして「日本百名橋」の番外としても知られています。また、古くから歌枕としても親しまれ、周辺には「棧温泉」や「木のかけはし」といった関連スポットも点在しています。

概要

木曽川は、その急峻な地形ゆえに、かつては通行が困難な断崖が数多く存在しました。そのため、人々は断崖に丸太を差し込み、その上に板を渡して桟道（さんどう）を設けることで、この難所を克服していました。その中でも特に有名なのが、「波計の桟（はばかりのかけはし）」で、福島宿と上松宿の間に位置し、かつては日本三奇橋の一つに数えられていました。この桟道は、その独特な構造と周囲の景観から、多くの旅人を魅了しました。

しかし、時代の流れとともに、交通網の整備が求められるようになりました。1997年（平成9年）には、国道19号線上に岩が落下し、通行止めが発生しました。これを契機に、1999年（平成11年）から「桟改良」という大規模なバイパス工事が開始されました。この工事によって、かけはし大橋が2009年（平成21年）11月7日に、かけはしトンネルとあげまつ大橋が2014年（平成26年）3月29日にそれぞれ開通し、木曽川沿いの交通は大きく改善されました。

歴史

木曽の棧の歴史は古く、『今昔物語集』にもその記述が見られます。応永7年（1400年）から14年（1407年）にかけて、木曽川沿いに新道が開かれた際、長さ60間（約109m）の桟道が設けられたと伝えられています。当時の桟道は、険しい岩の間に丸太と板を組み込み、藤づるなどで結わえた簡素なものでした。その後、慶長5年（1600年）には、豊臣秀頼の命により、犬山城主・石川備前守が改良工事を行いました（『前田慶次道中日記』）。

正保4年（1647年）には、通行人の松明の火が原因で桟道が焼失してしまいます。しかし、翌慶長元年（1648年）には尾張藩が875両をかけて再建し、中央部に8間（約14.5m）の木橋を架け、長さ56間（約102m）の石垣を築きました。その後、寛保元年（1741年）と明治13年（1880年）の二度にわたる改修を経て、木橋下の空間はすべて石積みとなりました。明治44年（1911年）には、わずかに残っていた木橋も国鉄中央線工事のために取り除かれ、現在では石垣のみがその歴史を物語る遺構として残っています。

現在の木曽の棧

現在の木曽の棧は、かつての桟道の面影を留める石垣が残るのみとなっています。しかし、その歴史的な価値は高く、多くの観光客や歴史愛好家が訪れています。周辺には、棧温泉や木のかけはしといった観光スポットもあり、木曽の自然と歴史を感じられる場所として親しまれています。

参考文献

松村博『日本百名橋』鹿島出版会
現地の紹介看板

関連項目

日本の橋一覧
信濃の国 - 4番に登場

木曽の棧は、その歴史と景観から、多くの人々に愛され続けています。訪れる人々は、かつての桟道に思いを馳せ、歴史の重みを感じることでしょう。

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