太田静子

太田静子：『斜陽』の源流、愛と苦悩の生涯

太田静子（1913年8月18日 - 1982年11月24日）は、昭和期の歌人、作家であり、太宰治の愛人として、また彼の代表作『斜陽』に日記を提供したことで広く知られています。娘は作家の太田治子。

生い立ちと文学への目覚め

滋賀県愛知郡愛知川町（現在の愛荘町）で、開業医の四女として生まれた太田静子。九州の大名のお典医の家系という由緒正しい家柄でした。愛知高等女学校を卒業後、東京の実践女学校家政科へ進みましたが、すぐに口語短歌に惹かれ、逗子八郎が主宰する「短歌と方法」に参加。1934年には口語歌集『衣裳の冬』を刊行しました。

文学青年であった実弟、太田通の勧めで国文科への転科を試みましたが、両親の反対により断念。しかし、帰郷を拒否し東京に残り、弟と生活を共にしながら前衛的な詩歌や小品文を創作しました。また、画塾や琴の稽古にも通い、38歳のフランス帰りの画家と恋に落ちるなど、芸術に囲まれた生活を送りました。

太宰治との出会いと『斜陽』

1938年に父が亡くなった後、母と共に弟を頼って上京。その後結婚、長女を授かるも、間もなく死別するという悲しい出来事を経験します。離婚後、太宰治の愛読者であった弟の勧めで、太宰の作品に触れ、自らの体験を綴った日記風の告白文を太宰に送ったことが、二人の運命を大きく変えました。

1941年、太宰からの手紙をきっかけに交流が始まり、やがて恋に落ちます。しかし、太宰は既婚者であり、その関係は複雑なものでした。太宰の妻である美知子から疑念を持たれる中、太宰の門人との逢引を勧められるも、「結婚を考えない男とは付き合いたくない」と拒否しました。

1943年、叔父の紹介で神奈川県下曾我村の山荘に疎開。1944年には太宰が訪れ再会を果たします。そして戦後、1947年に太宰から小説の題材として日記の提供を依頼され、提供した日記が、太宰の代表作『斜陽』の材料となりました。

この時、太宰の子を妊娠。太宰との関係は、彼女に深い心の傷を負わせる一方、娘である太田治子を授かるという結果をもたらしました。太宰は認知書を書き、「治子」と命名しました。

『斜陽日記』と晩年

太宰の死後、太田静子は生活のために様々な仕事に就きながら、娘を育てました。太宰の死後には、太宰作品に関する言動を慎む旨の誓約書にサインしたものの、津島家からの冷遇に耐えかね、『斜陽日記』を刊行。しかし、その内容が『斜陽』と酷似していたため、太宰死後の捏造ではないかという批判を受けました。

晩年は肝臓癌に苦しみ、1982年11月24日に69歳で亡くなりました。

太田静子の生涯は、太宰治との愛憎、そしてシングルマザーとして娘を育て上げた苦労に満ちたものでした。彼女の残した日記は『斜陽』として結実し、彼女自身もまた、その作品とともに人々の記憶に刻まれています。

著書

斜陽日記 太田静子 、石狩書房 、1948年
斜陽日記 小学館文庫 1998年
小説太宰治　太田静子 ハマ書房　1948年
あはれわが歌 ジープ社 1950年

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