口語短歌

口語短歌について

口語短歌は、明治以降に話し言葉を短歌に取り入れた形式のことを指します。このスタイルは日本の短歌文学において重要な役割を果たしてきました。特に、明治20年代の言文一致運動以降、口語短歌の土台が築かれていきました。この時期、短歌はより多くの人々に親しまれるようになり、文学としての幅を広げていきました。

初期の口語短歌

明治40年代になると、詩や小説における口語文体の普及が進み、短歌でも本格的な口語短歌が見られるようになりました。1906年に青山霞村が発表した『池塘集』は、初めての言文一致短歌集として注目され、収録された作品の約60%が口語表現でした。また、石川啄木や若山牧水といった詩人も文語体でありながら口語的な要素を強調した短歌を詠み、彼らの影響を受けた多くの歌人が口語を意識して詠むようになりました。 しかし、大正時代になるとこの流れは次第に薄れていきます。

口語短歌運動の興隆

大正末から昭和初期にかけて、プロレタリア文学運動や新興芸術派運動の高まりが口語短歌運動の潮流となりました。この動きには坪野哲久や五島美代子など、多くの新しい歌人たちが参加し、前田夕暮のような中堅歌人も口語自由律歌集を発表しました。この時期に作られた短歌の中には、旧来の文語短歌とは異なる、完全な口語による作品が数多く現れました。

しかしこの流れは、字足らずや字余りへの過度な寛容さから、短歌の伝統的な形から離れてしまう事態を招きました。国粋主義や軍国主義の台頭と共に短歌運動が停滞する中で、口語短歌の運動も影を潜めていきました。

終戦後の展開

第二次世界大戦後、短歌に対する批判的な見解が現れる中で、口語短歌は再び注目を集めました。土岐善麿の歌が再評価されたものの、大きな変化には至りませんでした。戦後の少数の歌人たちが口語で短歌を詠む形で口語短歌は息を潜めるように続きました。

昭和末期の動き

昭和末期に入ると、口語短歌は新たな展開を見せます。文語と口語を巧みに組み合わせたスタイルが出現し、俵万智の影響で広まりを見せました。また、完全な口語に基づいた短歌も増え、作風が多様化してきました。加藤治郎や荻原裕幸など、文語を大胆に使わずに口語表現を推進する新しい歌人たちも登場しました。彼らは自由な発想を持っており、短歌の形式を模索していました。

平成以降の潮流

平成に入ってからも、新しい歌人たちが登場し、完全な口語表現を使った軽快な作風が注目を集めました。枡野浩一などが口語短歌の普及に貢献し、口語短歌は次第に定着していきました。しかし、伝統的な文語短歌が主流である中で、口語短歌は依然として一部の歌人からは評価されませんでした。それでも口語短歌の表現は多様化し、萩原慎一郎などの活躍によって、新たな可能性を見せる場面も増えています。

このような口語短歌の歴史を通じて、短歌は時代の変遷と共に意義を持ち続け、常に新しい表現を模索し、現代の文学シーンでも不可欠な存在となっています。

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