太陽と鉄

『太陽と鉄』の概要と意義

『太陽と鉄』は、三島由紀夫の自伝的随筆および評論であり、彼自身が「告白と批評との中間形態」と表現している作品です。この著作では、自らの肉体と精神、生死、文と武といったテーマに焦点を当てています。三島の文学や思想、さらには彼の死に至るまでの経緯を考察する際に欠かせない重要な一冊として位置付けられています。

作品の発表過程

この作品は1965年から1968年にかけて同人季刊誌『批評』に連載され、その後文芸雑誌『文藝』にも掲載された随筆「F104」や長詩「イカロス」を終章として追加し、1968年に講談社から単行本として出版されました。翻訳版も多く、英語の他にイタリア語、フランス語、ポルトガル語、中国語など様々な言語に翻訳されています。

三島由紀夫の視点と背景

三島は『太陽と鉄』を書くにあたり、長い時間をかけて自身の文学、行動、そして精神と肉体の関係を公平かつ客観的に分析したと述べています。彼は、肉体と精神の両方に対する「公平」という態度が日本の知識人にとっては難解であると感じ、彼のこの作品について深い関心をもったのは少数の人々だけだったことを残念に思っていました。

作品の主題

太陽と肉体の関係

三島は、幼少期から「言葉」の力によって肉体的な実感が欠如していた自身について語ります。社会における「現実・肉体・行為」という概念を観察し、彼の中での二項対立を理解しようとしています。彼は敗戦を通じて死のイメージを抱きながらも、世界旅行を通じて「太陽」と和解し、自身の存在に対する感覚を育んでいきます。

文学と武道の結びつき

三島は、肉体を鍛える体験が言葉の抽象性とどのように関連しているのかを探求しています。ボディビルによる肉体鍛錬を通じて、彼は実在を認識し、「死」を意識することで言葉を超えた存在感を感じ取ります。このように、彼は「文武両道」の理念を追求し、物質世界と精神世界の調和を試みます。

特に印象深い結論

自衛隊体験を通じて彼が得た「言葉の要らない幸福」は、その瞬間に彼自身の存在感を確かなものにしました。存在感の確証を求め、自意識と存在との間の葛藤を抱えつつ、彼は言葉を駆使して自身の思考を表出していきます。

エピログと長詩「イカロス」

エピログとして付されている「イカロス」では、三島の現実との対比が描かれ、昇天したい願望が「地」の懲罰へと昇華される様子が綴られています。この詩は三島の願望と宿命を象徴するものであり、彼の思索の深さを感じさせる作品です。

文壇からの反響

同時代の評判は賛否が分かれており、三島の美学や文章が絶賛される一方で、新しい発見が少ないとの意見もありました。特に彼の個性があらわになったこの作品は、読者に強い影響を与えつつも賛否を呼ぶものとなっています。

結論

『太陽と鉄』は三島由紀夫の文学生涯の中で特に重要な作品であり、彼の思想、肉体の意義、生のあり方について深く考察することが求められます。その深淵なる探求は、今なお多くの読者を魅了し続けているのです。

もう一度検索