夫婦善哉 (映画)

夫婦善哉：昭和初期大阪を舞台にした心温まる夫婦の物語

1955年公開の日本映画『夫婦善哉』は、織田作之助の同名小説を原作とする名作です。巨匠・豊田四郎監督による演出、八住利雄による脚本、そして森繁久彌と淡島千景という豪華キャスト陣によって、昭和初期の大阪を舞台に繰り広げられる、芸者とドラ息子の波乱万丈な愛の物語が、なにわ情緒豊かに、ユーモラスに描かれています。

あらすじ:

物語は、大正から昭和初期の大阪、曽根崎新地を舞台に幕を開けます。売れっ子芸者である蝶子は、化粧品問屋の長男・維康柳吉と駆け落ちし、熱海へと向かいますが、関東大震災の発生により、大阪へ戻ることになります。柳吉には、十三歳になる娘・みつ子がいましたが、妻は病気のため実家に戻っており、すでに二年が経過していました。柳吉の父は、蝶子との仲を知ると柳吉を勘当してしまい、二人は困窮した生活を強いられます。

蝶子はヤトナ芸者として働き、苦労しながらも貯金を始めます。しかし、ボンボンの柳吉は、蝶子の貯金から小遣いをせびり、安価なカフェで遊び暮らす日々を送ります。そんな中、柳吉の妹が婿養子を迎えるという噂を耳にした柳吉は、家出をして数日間帰ってきません。地蔵盆の夜、蝶子は柳吉を見つけ、彼を叱責します。

実は柳吉は、廃嫡になる前に蝶子と別れ、金だけを手に入れるという策略を実行に移そうとしていたのです。この策略は失敗に終わりますが、妹から借りた三百円と蝶子の貯金で、飛田遊廓に「蝶柳」という関東煮屋を開店します。しかし、柳吉は賢臓結核を発症し、蝶子は病院代を稼ぐため店を売却することになります。

柳吉は退院後、有馬温泉で療養しますが、生活費を稼ぐため蝶子は再びヤトナ芸者として働きます。柳吉は父親や養子からも見放され、再び金を借りて、蝶子とカフェを経営します。柳吉の父が亡くなっても、蝶子との仲は許されず、葬儀には参列するものの、位牌を持つことも許されません。数日後、二人は法善寺境内の「めおとぜんざい」を訪れ、そこで寄り添い合うのです。「頼りにしてまっせ、おばはん」「おおきに」。この言葉が、二人の揺るぎない愛情と未来への希望を象徴的に表しています。

キャストとスタッフ:

本作は、森繁久彌と淡島千景の素晴らしい演技が光るだけでなく、豊田四郎監督をはじめとする、錚々たるスタッフ陣によって作り上げられました。撮影は三浦光雄、音楽は團伊玖磨、美術は伊藤熹朔など、それぞれの分野で才能溢れる人材が集結しています。脇役も浪花千栄子、司葉子、小堀誠など、当時を代表する名優たちが脇を固めています。

受賞歴と評価:

『夫婦善哉』は、公開当時から高い評価を受け、第10回毎日映画コンクールでは森繁久彌が男優主演賞を、第6回ブルーリボン賞では森繁久彌と淡島千景が主演賞を受賞しました。第29回キネマ旬報ベスト・テンでは第2位にランクインし、1999年にはキネマ旬報社が発表した「映画人が選ぶオールタイムベスト100・日本映画編」でも第31位に選出されるなど、現在でも高い評価を得ています。

続編と関連作品:

1963年には、豊田四郎監督、森繁久彌と淡島千景を再び主演に迎えた続編『新・夫婦善哉』が公開され、1968年には土居通芳監督、藤山寛美と野川由美子主演による『喜劇 夫婦善哉』も制作されました。また、何度もドラマ化されており、2013年にはNHKでもドラマ化されています。

『夫婦善哉』は、時代を超えて愛され続ける、日本映画史に残る名作です。昭和初期の大阪の風情、そして人間模様を丁寧に描き出したこの作品は、今もなお多くの観客を魅了し続けています。その魅力は、時代や世代を超えて、人々の心に深く響く普遍的なテーマにあると言えるでしょう。

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