奄美カトリック迫害
奄美カトリック迫害
奄美カトリック迫害は、1920年代から1930年代にかけて、奄美大島でカトリック教会とその信徒に対して行われた一連の迫害事件です。この事件は、当時の日本における国家神道とカトリックの対立を背景に、地域社会に深い傷跡を残しました。
奄美でのカトリック宣教
1891年、奄美大島で最初のカトリック洗礼が行われ、その後、宣教活動は急速に拡大しました。フェリエ神父は、初代教会のように数千人もの人々に洗礼を授ける夢を見たと言われています。1923年には信徒数が4057人に達し、1924年にはカナダのフランシスコ会モーリス・ベルタン神父の尽力により、ミッションスクールとして大島高等女学校が開校しました。1925年には、町から提供された敷地に鉄筋コンクリート2階建ての校舎が完成し、教育活動が本格化しました。1927年には昭和天皇、教皇使節マリオ・ジャルディーニ大司教が相次いで来島し、カトリック教会の存在感が増しました。
迫害の経緯
迫害の兆しは、1923年にカトリック信徒の中学生2名が高千穂神社への参拝を拒否した事件から始まりました。この事件は退学処分となり、地元紙『鹿児島新聞』は「過激な言動をするキリスト信者が増加している」と報道しました。しかし、当時の信者数は島民の5.6％に過ぎなかったという指摘もあります。
1924年には、大島高等女学校が教育勅語を奉読していないとして非難され、1933年になると、邪教排撃運動が激化。名瀬町民大会は、大島高等女学校が国体に反するとし、学校の即時撤廃を求める決議を宣言しました。その結果、1934年3月31日をもって廃校となることが文部省に認可されました。背景には、教育勅語への不敬があったという理由が挙げられています。奄美のカトリック信者は、日本宗教への改宗を強要され、従わない信者は軍人によって監禁、脅迫されました。
青年団員は信徒の家に押し入り、十字架、ロザリオ、祈祷書を奪い、代わりに天照大神の札を貼りました。憲兵は「天皇とキリストのどちらが偉いか」と詰問し、教会は襲撃されました。奄美大島要塞司令部は、カトリック教義が「国体・国民精神と相いれない」と報告し、1936年には瀬戸内国防協会が「スパイ容疑外人、並びに邪教カトリックの徹底的殲滅」を決議しました。聖心教会の聖堂内の十字架は破壊され、大笠利の教会は焼失。迫害の中で、14の教会は鹿児島県に無償譲渡されました。その後、町村に払い下げられ、役場となった聖心教会では十字架が切り倒され、日の丸が掲げられました。カトリック信者の家は防空演習を名目に放水され、家財が水浸しになる被害も発生。肺病の少女が寝ていた布団まで水浸しになるなど、非人道的な行為も行われました。
迫害の影響
この迫害によって、奄美のカトリック教会は大きな打撃を受けました。しかし、信者たちは信仰を守り続け、戦後の復興期には、教会活動を再開しました。1991年時点では、奄美大島には29の教会と4300人の信者が存在しています。この事件は、宗教的寛容の重要性と、国家権力による信仰の弾圧の危険性を示す歴史的な教訓として、語り継がれています。
関連書籍
関連項目
- - 聖名高等女学校
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