奇跡 (1955年の映画)

映画『奇跡』について

1955年に公開されたカール・テオドア・ドライヤー監督によるデンマーク映画『奇跡』（原題: Ordet）は、信仰、家族、愛、そして奇跡という普遍的なテーマを深く掘り下げた作品です。ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞し、キネマ旬報ベスト・テンにも選出されるなど、国際的に高い評価を得ています。この映画は、デンマークの劇作家で牧師でもあったカイ・ムンクの戯曲『御言葉（オルデット）』を原作としています。

ストーリー

物語の舞台は1925年のデンマーク。信心深いモルテン・ボーエンは、息子たちと農場を経営しています。長男ミケルは信仰を持たず、父モルテンとの間に溝があります。ミケルの妻インガは優しくしっかり者で、夫婦には二人の娘がおり、インガは三人目を妊娠中です。次男ヨハネスはかつて牧師を目指していましたが、精神を病み、自分をキリストと同一視するようになります。

三男アーナスは、アンネという女性と恋仲ですが、アンネの父はモルテンとは異なる宗派を信仰しており、二人の結婚を認めていません。アーナスはインガに相談し、アンネの父に結婚を認めてもらうよう頼みますが、拒否されます。モルテンも宗派の違いから二人の結婚に反対しますが、アーナスが追い返されたことを知ると、自らアンネの父を説得しようとします。

モルテンとアンネの父は口論となり、結婚の話はまとまらないまま、インガの容態が悪化したという知らせが届きます。インガは男の子を出産しますが、その子は亡くなってしまいます。その後、インガも急死してしまいます。家族が悲しみに暮れる中、ヨハネスはインガが生き返ると予言します。しかし、誰もヨハネスの言葉を信じません。ただ、ミケルとインガの長女だけが、インガを生き返らせてほしいとヨハネスに懇願します。

葬儀の日、アンネの父がアンネを連れてやってきて、過去の言動を謝罪し、アーナスとの結婚を認めます。家族が和解する中、行方不明になっていたヨハネスが現れます。彼は以前の正気に戻っており、心から祈ればインガは生き返ったと話します。長女に促されたヨハネスがインガに呼びかけると、インガは奇跡的に息を吹き返します。家族は奇跡に喜び、ミケルはインガを抱きしめます。

主要な登場人物

モルテン・ボーエン: 農場を経営する信心深い父親。息子たちの信仰に悩む。
ミケル: モルテンの長男。無神論者で父と対立する。
ヨハネス: モルテンの次男。精神を病み、自分をキリストと同一視する。
アーナス: モルテンの三男。アンネとの結婚を望んでいる。
インガ: ミケルの妻。優しく、家族を支える。
アンネ: アーナスの恋人。
ペーター: アンネの父。モルテンと異なる宗派を信仰している。

作品の背景とテーマ

原作のカイ・ムンクは、デンマークの国民的な劇作家であり、牧師、そして反ナチ運動家として知られています。彼の戯曲『御言葉』は、信仰と愛という普遍的なテーマを深く掘り下げた作品であり、ドライヤー監督はこの作品を通して、自らの信仰に対する問いを投げかけています。

受賞歴

ヴェネツィア国際映画祭 サンマルコ金獅子賞
* 第13回ゴールデングローブ賞 外国語映画賞

映画『奇跡』が私たちに問いかけるもの

『奇跡』は、信仰とは何か、家族とは何か、愛とは何かを問いかける作品です。宗教的な対立、信じることの難しさ、そして奇跡の可能性など、多くのテーマを含みながら、私たち自身の内面と向き合うきっかけを与えてくれます。ドライヤー監督の映像美と、俳優たちの迫真の演技が、物語をより一層深く、そして感動的にしています。

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