カール・テオドア・ドライヤー

カール・テオドア・ドライヤー

カール・テオドア・ドライヤー（Carl Theodor Dreyer, 1889年2月3日 - 1968年3月20日）は、デンマーク出身の映画監督。

生涯

出生の秘密

1889年、コペンハーゲンで私生児として生まれたドライヤー。父はデンマーク人の地主で、母はスウェーデン人の女中でした。彼はすぐに乳児院に預けられ、いくつかの施設を転々とした後、1890年に植字工のドライヤー家に養子として迎えられました。養家は厳格で、ドライヤーは常に感謝を強要され、自身の出生を負い目に感じていました。17歳で家を出て以降、養家とは二度と関わることはありませんでした。

18歳の時、ドライヤーは生母ヨセフィーナ・ニルソンの悲劇的な運命と自身の出生の秘密を知ります。彼女は妊娠後、父親の一族によってデンマークでの出産を強制され、その後、別の男性との間に男児を身ごもりましたが、相手に結婚を拒否されたため、中絶を試み死亡しました。母の死を知ったドライヤーは、社会の不寛容さが彼女を死に追いやったと悟り、そのテーマは後の作品に深く反映されていきます。

映画への傾倒

ジャーナリストに転身したドライヤーは、演劇評や航空機の記事を執筆しました。また、裁判記事を通して中産階級の人々を知り、社会に対する理解を深めていきました。その後、映画への関心を深め、映画批評を執筆する傍ら、ノーディスク・フィルムで映画技術を学びました。編集や字幕の挿入を通して映画制作の基礎を築いたドライヤーは、「映画は撮影時にすでに編集されている」と語っています。1918年、初の監督作品『裁判長』に着手し、翌年完成させました。

様々な国での映画製作

3作目『サタンの書の数頁』以降、ドライヤーはデンマークを離れ、ヨーロッパ各地で映画製作を続けます。不況と映画界の凋落という困難な状況の中、『不運な人々』(1922年)はドイツ、『むかしむかし』(1922年)はスウェーデン、『グロムダールの花嫁』(1926年)はノルウェーと、作品ごとに製作会社が変わる状況でした。当時の映画界は、特定のスタジオとの契約が一般的でしたが、ドライヤーはそのような常識にとらわれず、独自の道を歩みました。

1924年、ドイツで製作した『ミカエル』では耽美的な世界を追求し、翌年デンマークに帰国して製作した『あるじ』は興行的な成功を収めました。その後、フランスのソシエテ・ジェネラール・ドゥ・フィルム社から歴史劇の依頼を受け、『裁かるるジャンヌ』を製作しました。しかし、これらの作品は当時興行的に失敗に終わりました。『吸血鬼』(1932年)は、配給会社によって短縮され、ナレーションが加えられたことでドライヤーは失望しました。

その後も、約10年に1作というペースで『怒りの日』(1943年)、『奇跡』(1955年)、『ゲアトルーズ』(1964年)を製作しました。『奇跡』と『ゲアトルーズ』は、それぞれヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞と国際映画批評家連盟賞を受賞するなど、国際的に高い評価を受けました。

実現しなかった企画

1968年3月20日、ドライヤーはコペンハーゲンの病院で79歳で亡くなりました。晩年は、キリストの生涯とエウリピデスの戯曲『メディア』の映画化を企画していましたが、実現には至りませんでした。また、ユージン・オニールとウィリアム・フォークナーの作品の映画化も望んでいました。

名前の表記

『裁かるるジャンヌ』がフランスで製作されたため、作品が日本に紹介された当初はフランス語読みの「カール・テオドール・ドライエル」という表記が用いられていました。その後、デンマーク語の発音に近い「カール・テオドア・ドライヤー」という表記が用いられるようになりました。

作風

ドライヤーは生涯で14本の長編映画を監督し、いずれも神秘的な雰囲気をまとっています。女性を主役にした作品が多く、彼女たちが社会の抑圧に立ち向かう姿を描いています。戯曲の脚色が多く、台詞を純化し、必要不可欠な言葉だけで構成し直すのが彼の脚色法の特徴です。また、固定のスタイルを持たず、作品ごとに異なるスタイルを追求しました。例えば、『吸血鬼』ではレンズに不自然な光を入れ、灰色の画面を作り出すなど、独自の映像表現を試みました。ドライヤーは、すべての要素をコントロールし、作品ごとに最適な表現を追求しました。

影響

未完に終わった『メディア』の脚本は、ラース・フォン・トリアーによってテレビ映画として製作されました。また、ピエル・パオロ・パゾリーニはドライヤーの企画を引き継ぎ、『奇跡の丘』と『王女メディア』を製作しました。ジャン＝リュック・ゴダールは『女と男のいる舗道』で『裁かるるジャンヌ』を引用し、ジャン＝マリー・ストローブはドライヤーの未完の企画について言及しました。フランソワ・トリュフォーは、ドライヤーを映画の巨匠と称えました。

監督作品

長編

『裁判長』(1919年)
『牧師の未亡人』(1920年)
『サタンの書の数頁』(1920年)
『不運な人々』(1922年)
『むかしむかし』(1922年)
『ミカエル』(1924年)
『あるじ』(1925年)
『グロムダールの花嫁』(1926年)
『裁かるるジャンヌ』(1928年)
『吸血鬼』(1932年)
『怒りの日』(1943年)
『二人の人間』(1945年)
『奇跡』(1955年)
『ゲアトルーズ』(1964年)

短編

『母親支援』(1942年)
『田舎の水』(1946年)
『村の教会』(1947年)
『癌との戦い』(1947年)
『彼らはフェリーに間に合った』(1948年)
『トーヴァルセン』(1949年)
『ストーストレーム橋』(1950年)
『城の中の城』(1954年)

参考文献

ジョルジュ・サドゥール『カール・ドライヤーの展開』（『世界映画史 12』図書刊行会、2000年）

外部リンク

carldreyer.com
カール・テオドール・ドライエル - allcinema
カール・テオドア・ドライヤー - KINENOTE
Carl Theodor Dreyer - IMDb（英語）
Thoughts on My Métier by Carl Theodor Dreyer
* Carl Th. Dreyer by Armond White

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