奈良電気鉄道デハボ1300形電車

奈良電気鉄道デハボ1300形電車は、奈良電気鉄道（奈良電）が1957年に製造した電車です。戦後の混乱期における資材不足と、老朽化した車両の更新という二つの課題を解決するために、ユニークな方法で誕生しました。

概要

1950年代中盤、奈良電は戦中戦後の酷使により、旅客車両の修繕・更新に苦慮していました。一方で、貨物営業の廃止により、電動貨車が余剰となる状況が発生。そこで、余剰となっていた電動貨車デトボ351とデワボ501の電装品や台車を流用し、新たに全金属製の軽量車体を製造・組み合わせることで、16m級の電動客車2両を製造することになりました。

こうして、1957年3月に日本車輌製造にてデハボ1300形1301・1302の2両が製造されました。

車体

車体長は15,500mm、全長は16,200mm、車体幅は2,500mm、最大幅は2,550mm。片引き式の客用扉は幅1,100mmのものが2つ設置された16m級の車体です。外観は、窓の上下に補強帯が露出しないノーシル・ノーヘッダー構造の全金属製軽量車体で、平滑な印象を与えます。

設計は、日本車輌製造が製造を担当した遠州鉄道向け車両の図面を流用したという説があります。

窓配置はd1(1)D5D(1)1（d：乗務員扉、D：客用扉、(1)：戸袋窓、数字：側窓数）。側窓は戸袋を含めて幅900mm、高さ940mmの2段上昇式スチールサッシ（戸袋のみ1枚窓）で、下段には保護棒が取り付けられています。

運転台は半室式で、車掌台側はパイプで仕切られています。運転台側の妻面は、当時流行していた国鉄80系[[電車]]を模した「湘南顔」と呼ばれる非貫通流線型2枚窓構成を採用。連結面側は中央に900mm幅の貫通路が設置された切妻構造です。

前照灯は屋根中央に白熱電球が1灯、尾灯は腰板左右に外付け式で各1灯設置されています。

座席はロングシートで、屋根上の通風器はガーランド式です。

車体の塗装は、製造当時の奈良電の標準色である窓上クリーム、窓下グリーンのツートンカラーでした。

主要機器

奈良電開業時のデワボ500形に由来する機器を流用したため、比較的低出力の電動機を備えています。そのため、全電動車方式が採用されました。

主電動機

端子電圧500V時定格出力55kWの東洋電機製造TDK-31Tを、吊り掛け式で各台車に2基ずつ、計4基搭載しています。歯数比は21:54=2.57です。

制御器

東洋電機製造製ES電動カム軸式制御器を搭載しています。

集電装置

デハボ1301は京都寄り、デハボ1302は奈良寄りに、それぞれ東洋電機製造PT-35S菱枠パンタグラフを各1基搭載しています。

台車

両形式共に扶桑金属工業78A-32-B2を装着しています。これは、ボールドウィンA形に由来する形鋼組み立て式釣り合い梁式台車です。

ブレーキ

種車はウェスティングハウス・エアブレーキ純正のF三動弁による電動貨車用のAMF自動空気ブレーキを搭載していましたが、本形式は日本エヤーブレーキ製M三動弁によるAMM自動空気ブレーキを搭載しています。

連結器

連結面間には、衝動が少なく乗り心地の良い日本製鋼所製密着自動連結器を採用。運転台側には、種車から流用したとみられるシャロン式自動連結器が装着されています。

運用

奈良電気鉄道時代

普通列車用として全線で運用されました。

奈良電の近鉄への合併直前に、前照灯直下の幕板と屋根の接合部付近に雨樋が新設され、塗装が近鉄800・820系と同様のマルーン1色に変更されました。台車の関係からか、走行時の縦揺れがひどく、乗務員の間では「ホッピングカー」と呼ばれていたそうです。

近鉄時代

近鉄編入に伴い、本形式は一旦モ455形455・456に改番されました。

その後1964年にモ455（旧デハボ1301）の台車・主電動機が交換され、大幅な出力アップが実現しました。これに伴い、モ456（旧デハボ1302）は電装解除され、制御車のク355へ改造。台車も交換されています。

これらの改造の際に、ブレーキ力強化のため、A動作弁に増幅用の中継弁を併用するARブレーキへ改造されました。

1964年から1969年の間は、奈良電時代と同様に新田辺車庫配置のまま、モ430形（旧デハボ1000形）を併結した3両編成で普通電車として運用されました。

1969年の京都・橿原線架線電圧の昇圧工事の際には、車体が新しく継続使用に耐えるものであったことから、昇圧工事の対象車となりました。形式称号と車両番号の整理が実施され、400系に編入、それぞれモ455→モ409とク355→ク309に改番。機器の更新も実施されました。

その後、大型車の増備が進み、保守が難しくなりつつあった主電動機が交換され、ク309の台車も交換されています。

保安度向上のため、前照灯がシールドビーム2灯式に改造、尾灯も変更、排障器（スカート）が追加設置されました。

昇圧後は生駒・田原本線といった支線区を中心に使用されました。

車体の老朽化で他の400系各編成は1977年までに廃車となりましたが、409編成は車体の経年からその後も残され、主に生駒線で運用されました。しかし、車体と機器の老朽化、冷房改造が困難であること、非貫通のため他系列との併結ができないことから、1987年に廃車、解体されました。

現在、2両とも現存しません。

もう一度検索