奥井復太郎

奥井復太郎

奥井復太郎（おくい ふくたろう、1897年11月21日 - 1965年2月16日）は、昭和期の日本を代表する都市経済学者、都市社会学者、そして農業経済学者です。経済学博士の学位を持ち、慶應義塾長という要職も歴任しました。彼は、日本における都市研究の先駆者として知られ、その研究は景観論や風景へのアプローチも含む多岐にわたるものでした。

生涯

1897年、東京市下谷区車坂で生まれた奥井は、慶應義塾普通部から慶應義塾大学へと進学しました。大学時代には、ジョン・ラスキンの思想に深く傾倒し、それが後の研究に影響を与えました。1924年からは、イギリス、ドイツ、アメリカなどへ留学し、イギリスでは産業革命期の都市や生活、田園都市運動を研究しました。ドイツでは、中世都市やシカゴ学派の研究にも携わりました。

1927年に慶應義塾大学経済学部の教授に就任し、英語経済学、都市経済論、独語経済学を担当しました。1937年には、ほぼ単独で鎌倉町全域を対象とした詳細な調査を実施。この調査は、彼の都市研究における実践的なアプローチを示すものとなりました。1941年には、『現代大都市論』で経済学博士号を取得し、戦前に都市の社会学的研究を事実上確立しました。戦時中は、慶應義塾大学亜細亜研究所の所長でもあった加田哲二理事のアジア問題調査会に協力しましたが、加田の対外膨張主義的な主張とは一線を画していました。

戦後、1953年には日本都市学会の初代会長に就任し、都市研究の発展に尽力。1956年には慶應義塾長に就任し、昭和天皇を創立100年記念式典に迎えるなど、大学運営でも手腕を発揮しました。また、商学部を発足させるなど、大学の発展にも貢献しました。1962年には慶應義塾ビジネススクール（現・慶應義塾大学大学院経営管理研究科）の校長に就任しました。1963年には北九州市マスタープラン調査会長、1964年には地域開発研究所を創立し、国土・地域の開発に関する調査研究や政策提言を行いました。

1965年、膵臓炎のため慶應病院で亡くなりました。カトリック教徒であり、洗礼名はヨセフでした。墓所は春秋苑にあります。

業績

奥井復太郎の研究は、都市経済学、都市社会学、農業経済学の分野にまたがり、特に都市問題に関する深い洞察を示しました。彼は、都市の発展と社会構造の関係、都市における生活様式、そして景観や風景の重要性に着目しました。彼の研究は、単なる理論的な分析にとどまらず、実際の都市調査を通じて得られたデータに基づいた実践的なものでした。例えば、鎌倉町全域を対象とした調査は、当時の都市調査としては画期的なものであり、その後の都市研究に大きな影響を与えました。

また、日本都市学会の初代会長として、都市研究の発展に貢献するとともに、文化勲章受章者選考委員会や文化功労者選考審査会の委員も務めるなど、社会的な活動も積極的に行いました。彼の業績は、現代の都市計画や地域開発にも大きな示唆を与えています。特に、都市の精神や生活に着目した研究は、現代の都市における人間的な暮らしを考える上で重要な視点を提供しています。

主な著作

『新旧渺茫 : 奥井復太郎遺稿集』（1972年）
『國土計畫論』（1940年）
『現代大都市論』（1940年）
『都市經濟論』（1941年）
『奥井復太郎著作集』（1996年）
『都市の精神 : 生活論的分析』（1975年）

参考文献

* 藤田弘夫『奥井復太郎 : 都市社会学と生活論の創始者』（2000年）

奥井復太郎は、その多岐にわたる研究と社会活動を通じて、日本の都市研究の基礎を築いた偉大な学者であり、その功績は今日の都市計画や社会学研究においても重要な指針となっています。

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