奥田久司

奥田久司：映画プロデューサー、映画史研究家

奥田久司（おくだ ひさし、1908年 - 1987年）は、日本の映画界において、プロデューサー、そして映画史研究家として多大な貢献を果たした人物です。彼は、数々の名作映画を企画し、特に大映京都撮影所での特撮映画の企画・制作において、その才能を遺憾なく発揮しました。

生い立ちと映画界への足跡

1908年（明治41年）に生まれた奥田は、旧制京都一中を卒業後、早稲田大学ロシア文学科に進学しました。当初は小説家への道も考えていたものの、映画への情熱を捨てきれず、大学を中退後、映画関連の通信社「日本演芸通信社」に入社しました。そこで7年間デスクを務めた後、映画界への夢を追い求め、1941年（昭和16年）に北京の国策映画撮影所「華化映画」に入所しました。その後、1944年（昭和19年）には「大日本映画製作株式会社」（後の大映）に入社し、企画部で数々の映画企画に携わることになります。

大映での活躍

大映入社後、奥田は企画者としてその才能を開花させます。1949年（昭和24年）には『透明人間現わる』を、1961年（昭和36年）には日本初の70mm総天然色スペクタクル映画『釈迦』、そして1964年（昭和39年）には日米合作の特撮映画『あしやからの飛行』といった意欲的な作品を次々と企画しました。1965年（昭和40年）には大映京都撮影所の企画副部長（プロデューサー）に就任し、異動第一作目として『大魔神』を企画しました。この作品は、特撮技術を駆使した迫力ある映像と、日本の伝統的な美意識を融合させた時代劇として、観客を魅了しました。その後も、『大魔神怒る』、『大魔神逆襲』と続く「大魔神三部作」を企画し、大映特撮映画の黄金時代を築きました。

これらの作品以外にも、『兵隊やくざシリーズ』、『座頭市シリーズ』、『眠狂四郎シリーズ』といった人気シリーズの企画にも携わり、勝新太郎と市川雷蔵という二枚看板スターを擁して、大映京都撮影所を活気づけました。これらの作品群は、時代劇映画の新たな可能性を示し、多くのファンを魅了しました。

映画史研究家としての活動

1968年（昭和43年）に大映を定年退職した後、奥田は映画史研究家として、その知識と経験を活かした著作活動を行いました。長年培ってきた映画への深い愛情と、業界での経験を元にした貴重な証言は、映画史研究において重要な資料となっています。

人物像とエピソード

奥田は大映京都撮影所で多くの特撮映画を企画しており、初期の作品である『透明人間現わる』の企画書は、当初『透明魔』という仮題でした。この企画を円谷英二に見せたところ、円谷は「これ絶対面白いから、私協力します」と快諾し、戦後円谷の本格復帰作となりました。

奥田は伊福部昭のファンであり、数多くの企画作品で伊福部を起用しました。伊福部もそれに応え、『大魔神』三部作など数々の作品で素晴らしい音楽を提供しました。奥田は当時の映画上映スケジュールが週替わりであったことを振り返り、「映画というのは一週間の勝負」という意識で作品作りに取り組んでいたと語っています。

奥田は企画作品のタイトルや登場人物の名前を決定する際、「題名帖」や「人名ノート」を作成し、邦画・洋画のタイトルや小説などからヒントを得ていたそうです。『大魔神』に登場する「小源太」や「左馬之助」といった名前も、すべて奥田が考案したものです。

『大魔神』は、『釈迦』でのスペクタクル場面の成功や、『あしやからの飛行』での特撮実績、そして京撮の特撮スタッフの充実によって、東宝に対抗できるという自信のもと企画されました。奥田は当時の状況を「東京のやつに負けてたまるかというライバル意識もあった」と語っています。

『大魔神』シリーズは制作費がかさんだため、興行収入が制作費を上回ることが難しく、3作目以降の展開はうまくいきませんでした。それでも、奥田の熱意と情熱によって作られた『大魔神』シリーズは、今日においても多くの映画ファンに愛されています。

大映のワンマン社長であった永田雅一は、京都作品の最終決定権も握っていました。奥田は永田の業績を「功罪相半ば」としながらも、「60歳定年制」の導入を評価しています。この制度は、奥田が企画した『大魔神』が実現する上で重要な役割を果たしました。

まとめ

奥田久司は、その卓越した企画力と映画への情熱によって、日本の映画史に大きな足跡を残しました。彼が手がけた数々の名作は、今もなお多くの人々に感動と興奮を与え続けています。彼の生涯は、映画という芸術の可能性を追求し続けた証であり、後世の映画人にとって、大きなインスピレーションとなるでしょう。

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