姚広孝

姚広孝（よう こうこう）は、元統3年（1335年）に生まれ、永楽16年（1418年）に没した、明初の政治家、軍師、そして僧侶です。道衍（どうえん）という名でも知られています。

人物

蘇州長洲県の医者の家系に生まれた姚広孝は、14歳で出家し密教を学びました。その後、臨済宗に帰依し、法名を道衍、号を独庵とし、「独庵道衍禅師」と呼ばれました。また、道士の石応真から陰陽術と占術も習得しました。洪武帝の時代、朝廷は儒教に精通した僧侶を試験しましたが、道衍は官職を受けず、洪武帝から袈裟を授与されて帰されました。

洪武18年（1385年）、馬皇后の冥福を祈るために高僧が諸王に侍る際、道衍は燕王朱棣（後の永楽帝）と出会い、彼の軍師となりました。燕王の封地である北平に移住し、慶寿寺の住持でありながら、燕王と頻繁に密談を重ねました。

洪武帝の死後、即位した建文帝は諸王に対する削藩を強行し、周王、斉王、湘王、代王、岷王などが連座され、庶人に降格または自決に追い込まれる事態となりました。これに対し、道衍は燕王に挙兵を進言しました。燕王自身も建文帝の即位に不満を抱いていたため、この進言を受け入れ、道衍は軍師として建文帝軍を打ち破り、燕王を永楽帝として即位させることに成功しました（靖難の変）。

永楽帝は、靖難の変における道衍の功績を第一と賞し、「広孝」の名を与え、太子少師として厚遇しました。永楽帝の時代には、「太祖実録」や「永楽大典」の編纂に従事する傍ら、「道余録」など仏教擁護や浄土信仰に関する著作を多く残しました。

永楽帝の時代を通じて重用された大功臣でしたが、靖難の変で建文帝を廃し、永楽帝のもとで権勢を極めたため、故郷では家族や友人から二度と会ってもらえなかったと伝えられています。

逸話

劉秉忠の死後、約100年を経て永楽帝のブレーンとなった道衍は、劉秉忠の生まれ変わりとも言われました。

燕王朱棣に初めて会った際、「あなたに白い帽子をかぶせましょう」と言ったという逸話があります。これは、「王」の字に「白」の字を乗せると「皇」になることから、「あなたを王から皇帝にして差し上げましょう」という意味が込められています。

晩年、故郷に錦を飾ろうと帰郷しましたが、姉も知人も面会を拒否しました。諦めて帰ろうとした際、家から飛び出してきた姉に「和尚は道を過てり」と罵られ、落胆して故郷を去ったと伝えられています。このエピソードは、当時の民間で靖難の変がどのように評価されていたかを物語るものです。

参考文献

『永楽帝』（徳間書店、伴野朗）
『アジア歴史事典』（平凡社）

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