婦好

婦好（ふこう）

婦好は、古代中国、殷の時代の第23代王である武丁の妻の一人です。彼女の諡号は母辛（ぼしん）で、姓は記録に残っていません。婦好は、中国の歴史において記録されている最初の重要な女性政治家および軍事指導者の一人として知られています。

概要

婦好は武丁王の妻でしたが、『史記』のような後世の文献には彼女に関する記述はほとんどありません。彼女の存在は、主に甲骨文を含む商代の文字資料によって確認されています。特に1976年に彼女の墓が発見されたことで、その存在が広く知られるようになりました。

婦好に関する甲骨卜辞は250件以上も見つかっています。武丁の治世中、殷は周辺の国家や部族との間で頻繁に戦闘を行っており、婦好自身も多くの軍隊を率いて出征しました。彼女は巴方、土方、夷方などの征伐に赴き、羌人を討伐する際には13,000もの兵を率いたと記録されています。また、婦好は祭祀を執り行う役割も担っていました。その他、彼女の出産に関する卜辞や、体調や病気に関する卜辞も残されています。婦好の生死を占った卜辞もあり、彼女が武丁の治世中に亡くなったことが示されています。武丁の時代以降の甲骨文では、彼女は祭祀の対象となる祖先として登場します。

武丁よりも先に亡くなった婦好は、殷墟の宮殿宗廟地区内にある婦好墓（現在の河南省安陽市殷都区）に埋葬されました。この墓は殷の王族の墓の中で唯一盗掘を免れており、1976年に発見されました。墓からは、婦好が軍事的な権力を持っていたことを示す鉞（まさかり）や、殷の時代には珍しい銅鏡、方鼎や長方彝など、1,928点もの貴重な文物が出土しました。

呼称について

「婦好」の「婦」は、何らかの地位を表す言葉であり、一般的には「王の妻」と解釈されています。しかし、「婦」を冠する人物は少なくとも60名以上確認されているため、女官一般を指すとする説もあります。

「婦好」の「好」は、「子」という名の集団・国族の出身であることを示しています。甲骨文では、女性であることを示すために「女」が添えられ、「婦好」と書かれることが多いですが、「帚子」や「婦子」と書かれることもあります。厳密には、婦好は現代語で「ふし」と読むことになりますが、「子」に女偏を加えた字が好悪の「好」と同じ形であるため、便宜的に「ふこう」と読まれています。

死後の甲骨文では、「母辛」または「妣辛」という諡号で呼ばれています。「妣」は王の配偶者を表します。

脚注

参考文献

婦好を主人公とした作品

佳穂一二三 『婦好戦記　―最強の女将軍と最弱の巫女軍師― 』 (ヒストリアノベルズ)　–　王妃でありながら軍勢を率い、国境で異民族と交戦する古代中国歴史ファンタジー。

関連項目

婦好墓

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