媾疫

媾疫（こうえき）について

媾疫とは、交尾によって伝播する馬特有の感染症で、主にトリパノソーマ症の一種です。この病気は、ウマに対して深刻な影響を与え、感染から数年にわたり慢性の経過を辿ることが特徴です。感染したウマは、主に三つの段階に分かれた症状を示します。

症状

第1期

最初の段階では、生殖器に浮腫や潰瘍が見られます。この段階は、通常非常に目立たないため、多くの感染ウマにとって見過ごされてしまうことがあります。

第2期

次に、白っぽい瘢痕が出現します。これは特異的な症状であり、がんの動きが観察される段階です。この段階では、感染が明らかになることが多くなります。

第3期

最終段階では、貧血や神経的な異常、たとえば後肢の麻痺が進行することが見られます。この段階まで進行すると、致死率は50%から70%に達し、最終的には感染した馬が死亡に至ることが少なくありません。

潜伏期は通常1から2週間ですが、この期間は個体によって異なる可能性があります。ラバやロバも感染することがありますが、通常は無症状であることが多いです。犬に対する実験感染では明確な媾疫の症状を示すことが確認されていますが、ウマやウサギでは結果にばらつきが見られます。

病原体

媾疫の原因は、トリパノソーマ属に属する原虫です。かつては、特定の種とされていた「媾疫トリパノソーマ（Trypanosoma equiperdum）」は、最近の研究によりブルーストリパノソーマ（Trypanosoma brucei）の変異型であると考えられています。この病原体は、生殖器の粘膜に寄生し、血液中には発見されにくいという特性があります。更に、交尾を介して直接感染するため、媒介動物が関与しないのもこの病気の特異性です。

診断

媾疫の診断のための特異的な検査方法は確立されていないため、症状を基に臨床的に診断されます。ただし、早期の発見が非常に重要です。

治療・予防

残念ながら、媾疫に対する有効な治療法は存在しません。そのため、感染馬の淘汰や衛生的な管理が重要な予防策となります。

分布

媾疫はアフリカ、アジア、東および南ヨーロッパ、南アメリカに広がっていますが、日本ではこれまでのところ報告されていません。

歴史

媾疫は古いアラビアの文献にも登場している病気で、ヨーロッパで認識されたのは1796年頃です。その後、19世紀には広がりを見せ、1894年には初めて感染馬からトリパノソーマが発見されました。1940年代にはロシアやアルジェリアから大量に軍馬が持ち込まれ、戦後は系統的な検査により北アメリカやヨーロッパからほぼ撲滅されました。しかし、近年でもエチオピアやモンゴルから疑いの報告があるものの、病原体が分離されることはありません。

このように、媾疫は高度に致命的であり、馬にとって非常に深刻な感染症です。これまでの研究から得られた知識を基に、今後さらなる調査や対策が求められます。

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