子供の情景

ロベルト・シューマン：ピアノ曲集『子供の情景』作品15

ロベルト・シューマンの代表作として名高いピアノ曲集『子供の情景』（Kinderszenen, 作品15）は、1838年に作曲された全13曲からなる作品です。特に第7曲「トロイメライ」は、その甘美な旋律と抒情性から世界中で愛され、広く知られています。

作曲の経緯と作品への想

シューマンは1838年2月から3月にかけて、大部分の曲を書き上げ、4月には全曲を完成させました。一部は前年からの作曲も含まれています。同時期に妻クララへの手紙の中で「時々あなたは子供に思えます」という言葉を残しており、この言葉が作曲のインスピレーション源となったことが伺えます。当初は30曲ほど作曲された小品の中から、厳選された13曲が『子供の情景』としてまとめられました。シューマンの日記には「トロイメライ」が2月24日、「十分に幸せ」が3月11日に作曲されたと記録されています。

1839年2月、ライプツィヒのブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版されました。しかし、シューマンが楽譜を送付してから出版までには、理由は不明ながら大きな遅延が生じました。

この作品は、フランツ・リストにも深い感銘を与えました。リストはシューマンへ宛てた手紙の中で、この作品によって「生涯最大の喜びを味わうことができた」と綴り、娘のために週に2、3回は演奏していたと明かしています。しかしながら、リストはその後、シューマンへの手紙の中で「この曲は娘を夢中にさせますし、またそれ以上に私もこの曲に夢中なのです。というわけで私は、バカだと思うのでさようなら」という、衝撃的な言葉を残し自殺を図りました。幸いにも警察に発見され、事なきを得ています。

シューマンは後に『子供のためのアルバム』作品68や『子供のための3つのピアノソナタ』作品118なども作曲していますが、自身は『子供の情景』をそれらの作品とは異なり、「子供心を描いた、大人のための作品」と位置づけていました。これは、単なる子供向けの易しい曲ではなく、子供時代の感情や情景を繊細で深い表現力で描いた、大人も共感できる芸術作品であることを示しています。

各曲の特徴

全13曲は、それぞれに個性的な標題が付けられており、演奏時間はおよそ18分です。以下に各曲の特徴を簡単にまとめます。

第1曲「見知らぬ国と人々について」: ト長調。A-B-Aのリート形式。左手にはBACH音型が見られます。
第2曲「不思議なお話」: ニ長調。16分音符による快活な曲。装飾音符や付点リズムが効果的に用いられています。
第3曲「鬼ごっこ」: ロ短調。16分音符のスタッカートが特徴的で、子供たちの遊びの情景が生き生きと描かれています。
第4曲「おねだり」: ニ長調。第1曲と同じ音程関係で始まります。
第5曲「十分に幸せ」: ニ長調。穏やかで幸せな気分が表現されています。
第6曲「重大な出来事」: イ長調。付点リズムが特徴的です。
第7曲「トロイメライ（夢）」: ヘ長調。この作品全体の中でも最も有名で、多くの人に愛されています。幻想的で美しい旋律が特徴です。4小節の旋律の上昇と下降が8回繰り返される構成です。
第8曲「暖炉のそばで」: ヘ長調。「トロイメライ」と同様、ハ音からヘ音の4度跳躍で始まります。
第9曲「木馬の騎士」: ハ長調。シンコペーションと3拍目のアクセントが用いられています。
第10曲「むきになって」: 嬰ト短調。シンコペーションのリズムが中心となっています。
第11曲「怖がらせ」: ホ短調。感傷的な旋律とスケルツォ風の速い部分が交互に現れます。
第12曲「眠りに入る子供」: ホ短調。穏やかな旋律で、子供たちが眠りにつく様子が描かれています。
* 第13曲「詩人は語る」: ト長調。作曲者自身の言葉を表現している曲です。

現代における使用例

『子供の情景』は、現在でも様々な場面で使用されています。例えば、第1曲は特急やくもの車内チャイムとして、第7曲「トロイメライ」は多くの映画やアニメーション作品で使用されています。これらの使用例は、この作品が時代を超えて愛され続けていることを示しています。

まとめ

『子供の情景』は、単なる子供向けの音楽ではなく、子供時代を経験したすべての人々に感動と共感を呼び起こす、普遍的な魅力を持つ作品です。その美しい旋律と繊細な表現力は、現代においても人々の心を捉え続け、様々な形で愛され続けています。

もう一度検索