学校法人流通経済大学

学校法人流通経済大学は、日本の学校法人として、流通経済大学と流通経済大学付属柏中学校・高等学校の運営を担っています。この法人は、日本通運株式会社を設立母体とし、1965年に設立されました。創設当初の法人名は学校法人日通学園でしたが、2025年4月1日より現在の名称に変更される予定です。

設立にあたっては、当時の法制度下で営利企業が直接学校法人を設立することが困難であったこと、また企業利益を公益性の高い学校設立に充てる際の懸念などを考慮し、日本通運が財団法人小運送協会（後の利用運送振興会）に資金を寄付し、その資金を基に学園が設立されるという形が採られました。しかし、設立に向けた企画立案や実務は日本通運が主体となって進めたため、同社が実質的な設立母体であると位置づけられています。

設立の歴史的背景

法人の設立には、日本の物流・流通業界の歴史が深く関わっています。1872年の日本初の鉄道開通以降、国内物流の主役は水運や駅伝制から鉄道貨物輸送へと移行しました。これに伴い、鉄道駅を拠点として貨物の集荷・配送を行う「通運」または「小運送」と呼ばれる事業が誕生します。大正から昭和初期にかけては、小型車両や人力に頼る小規模事業者が駅ごとに乱立し、過当競争に陥っていました。

この状況を改善し、戦時物資輸送の効率化を図るため、政府は1937年に「日本通運株式会社法」を制定し、全国の小運送会社を整理統合して全国規模の総合物流企業「日本通運株式会社」を設立する政策（日通統合）を推進しました。この政策の一環として、通運業界の中堅幹部を育成するための教育機関設立も構想され、1938年に財団法人小運送協会の傘下で「小運送教習所」が1940年に開校しました。この教習所は単なる実務訓練に留まらず、文学や哲学といった教養科目も含む、現在の短期大学に近い教育内容を提供しており、通運業界の人材育成の質的向上を目指していました。この経験が、日本通運による将来的な学校法人設立と大学開設の着想につながったとされています。

戦後、日本通運は民営化され、小運送教習所は閉鎖、小運送協会も事業を縮小しました。しかし、高度経済成長期を迎え、日本の産業界では技術開発競争に加え、欧米から導入された生産管理や在庫管理といった新たな効率化手法が普及し始めます。これに伴い、物流・流通業界や企業の関連部門において、経済学・経営学を基礎としつつ、輸送や倉庫業に関する専門知識を持つ幹部候補人材の育成が喫緊の課題となりました。当時の産業界からは、既存大学への関連学科設置や、業界主導による高等教育機関設立を求める声が高まります。

企業主導の大学設立へ

このような産業界のニーズに対し、日本通運は一歩進んだ形で応えようとします。1961年に物流・流通に関する調査研究機関として日通総合研究所を設立していた同社は、かつての小運送教習所の理念を継承しつつ、従業員や社会人学生だけでなく広く門戸を開いた、社内教育機関ではない独立した学校法人による大学設立を具体的に表明しました。当時の日本通運社長である福島敏行氏は、物流分野における人材育成の重要性を強く認識しており、日通学園創設と流通経済大学開学を構想したと述べています。

企業単独での大学設立は前例がなく困難であったため、日本通運は交通経済学者をはじめとする大学教授陣の指導を仰ぎながら設立計画を進めました。1962年には大学設立計画案を策定し、1963年には茨城県龍ケ崎市に校地予定地を取得。同年10月には、輸送経済新聞が日本通運の大学設立計画を報じ、広く社会に周知されました。その後、設立準備委員会の設置、他大学への視察などを経て、1964年には法人名を「日通学園」、設置大学を「流通経済大学」と決定し、文部省に申請。そして1965年1月に認可が下り、同年2月に学校法人日通学園が設立されました。

この企業主導による物流・流通専門大学の設立は、産業界から画期的な取り組みとして歓迎され、専門人材育成に対する大きな期待が寄せられました。

設立後の運営と現状

順調な船出に見えましたが、設立後にはいくつかの課題に直面します。特に1960年代後半から1970年代前半にかけて、日本通運の経営状況の影響による財政支援の難しさや、企業が教育機関を支配することへの批判的な意見など、想定外の事態が生じました。これらの経験を教訓として、法人は財務の独立性と健全化を目指すとともに、経済学部のみだった学部を社会科学系へと拡充するなど、組織基盤の強化を進めました。現在では、学校法人の収入で運営が成り立つ体制が整っており、日本通運からの支援は特別な事業や節目における寄付に限定され、財務的にはほぼ独立した状態となっています。

一方で、設立の経緯を反映し、教育・研究面での協力関係は引き続き緊密です。日本通運の役員経験者が学園の役職に就任して運営に助言を行うほか、「日本通運寄附講座」の提供、学生のインターンシップ受け入れ、物流に関する共同研究や施設見学協力など、多岐にわたる連携が行われています。日本において、学校法人の多くが個人の篤志や宗教団体によって設立された例が多い中で、企業が産業界の発展と学術・教育振興を目的に学校法人の設立・運営を支援した事例は限られており、学校法人流通経済大学はその数少ない例の一つとして位置づけられます。

現在、学校法人流通経済大学は茨城県龍ケ崎市（龍ケ崎キャンパス、法人本部所在地）と千葉県松戸市（新松戸キャンパス、大学本部所在地）にキャンパスを置く流通経済大学と、千葉県柏市に流通経済大学付属柏中学校・高等学校を運営しています。

法人の運営には、歴代の理事長や学長が携わってきました。特に、第3代理事長である廣瀬眞一氏は、学園の課外活動や学生との交流に深い関心を示しており、その功績を称え、特に優秀な実績を残した学生を表彰する「廣瀬眞一記念スポーツ賞」が設けられています。

学校法人流通経済大学は、設立時の理念である物流・流通分野の人材育成を出発点としつつも、時代の要請に応じた組織拡充を図りながら、日本通運との緊密な連携のもと、特色ある教育研究活動を展開しています。

もう一度検索