駅伝制

駅伝制：古代から近世まで続いた情報伝達と交通システム

駅伝制は、広大な領土を持つ国家において、中央と地方を迅速に結び、情報を伝達するための重要な交通・通信システムでした。適切な間隔で設置された施設（駅）間を、人や馬、時には馬車などをリレーすることで、文書や使者を効率的に輸送しました。古代中国では「駅伝」と呼ばれ、類似のシステムは世界各地で独自の発展を遂げました。本稿では、その歴史と仕組み、そして日本における特質について解説します。

世界の駅伝制

中央集権国家の成立は、広大な領土の支配維持に不可欠な迅速かつ確実な情報伝達手段の必要性を生みました。そのため、さまざまな形態の駅伝制が制度として確立されました。外敵の侵入や反乱への迅速な対応も、駅伝制の重要性を高める要因でした。

古代オリエント

アッシリア帝国やアケメネス朝ペルシア帝国では、駅伝制が高度に発達しました。特にアケメネス朝のダレイオス1世が整備した王の道は有名で、主要道路に沿って一日行程ごとに駅が設置され、広大な帝国の統治に役立ちました。エラム語で「pirradaziš」と呼ばれたこのシステムは、王都スーサからサルディスまで数日間の行程を可能にし、エジプトやインドまで連絡網が整備されました。動物の皮に書かれた手紙は、駅ごとに馬と乗り手が交代しながら運ばれました。

古代ローマ

共和政ローマ初期には駅伝制は整備されていませんでしたが、アケメネス朝を参考に「クルスス・プブリクス」というシステムが構築されました。

イスラム帝国とオスマン帝国

イスラム帝国では独自の伝馬制度（バリード）が、オスマン帝国では「Ulaq」と呼ばれるシステムが用いられました。

中国

中国では戦国時代から駅伝制が始まり、秦、漢、隋、唐などで発展しました。「駅」は馬、「伝」は車の乗り継ぎ場所を意味すると解釈されます。政府・軍事用の通信輸送制度「遞運所」や、護衛・運送保険業「鏢局」も駅伝制と関連があります。

モンゴル帝国

大都を中心とした幹線道路に駅を設置し、周辺住民から馬や食料の提供を受けました。

インカ帝国

インカ帝国では、全長5万キロ[[メートル]]にも及ぶインカ道を整備し、「チャスキ」と呼ばれる公設の飛脚制度が機能しました。5キロ[[メートル]]間隔で駅が設置され、文字を持たないインカ帝国では、「キープ」と呼ばれる紐の束で情報を伝達し、時速20キロ[[メートル]]もの速さで情報を伝達できたと言われています。

日本の駅伝制

日本でも古代から近世まで、使者や物資の輸送に駅伝制（伝馬制）が用いられました。駅路と伝路という二つのシステムからなり、特に律令制においては、中央と地方間の情報伝達に欠かせない制度でした。

古代

7世紀後半の律令制において、中央と地方を結ぶ情報伝達システムとして整備されました。大宝律令の厩牧令では、駅は30里（約16キロ[[メートル]]）ごとに設置され、駅馬の数は道路の重要度によって異なりました。緊急連絡や公文書の伝達、官人の旅行などに利用されました。情報伝達は、特定の使者が最後まで運ぶ専使方式と、駅ごとあるいは国ごとにリレーする逓送使方式がありました。初期は逓送方式が主流でしたが、信頼性の低下から専使方式が中心となりました。

駅制と伝馬制

駅制は緊急の情報伝達を目的とし、駅路、駅家、駅馬から構成されました。駅使は駅鈴を携帯し、駅馬を利用して移動しました。伝馬制は使者の送迎を主目的とし、伝符を携行した使者が郡家ごとに置かれた伝馬を乗り継ぎました。伝路は駅路に比べ整備が進んでおらず、自然発生的な道路を主体としたと考えられています。

駅路、駅、駅馬、伝馬

駅路は直線的な形状で、道路幅も広く整備されました。駅には駅舎があり、駅長以下駅子らが駅馬の管理や使者の宿泊・給食などを担当しました。伝馬は郡ごとに5匹が置かれ、地方間の情報伝達も担っていました。

後の変遷

当初は駅馬や伝馬の使用は制限されていましたが、後に拡大され、不正使用も増加しました。そのため、伝馬は一時廃止されましたが、後に復活しました。律令制の衰退とともに、駅伝制も次第に衰え、伝路的な道が中心となりました。

海上交通

9世紀頃から、陸上交通に加え、船の利用も増えました。

中世と近世

戦国時代には、戦国大名が領国内の流通を統制するために伝馬制を整備し、領国間の連絡にも利用しました。近世の江戸幕府は諸街道を整備し、各宿場に伝馬を常設させました。物流の中心として伝馬が活用され、伝馬町と呼ばれる商業地も発展しました。

参考文献

武部健一『道路の日本史』
中村太一『日本の古代道路を探す』

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