学習性無力感

学習性無力感

学習性無力感とは、長期にわたるストレスや、回避困難な状況に置かれた結果、努力しても無駄だと学習し、状況を改善しようとする行動すら放棄してしまう現象を指します。これは、単なる無気力ではなく、過去の経験から「何をしても無駄だ」という認知が形成されることで生じる、深刻な状態です。別名として、学習性絶望感や獲得された無力感とも呼ばれます。

歴史

学習性無力感は、1960年代に心理学者マーティン・セリグマンによって提唱されました。セリグマンは、犬を用いた実験で、回避不可能な電気ショックを与え続けた結果、犬が逃げることを諦めてしまう様子を観察しました。この実験から、抵抗や回避が困難なストレス下に置かれると、状況を改善する努力すら行わなくなるという現象が明らかになりました。

当初は動物実験から得られた知見でしたが、その後の研究で、魚、ネズミ、猫、サル、そして人間においても同様の現象が確認され、学習性無力感の症状がうつ病の症状と類似していることが指摘されました。セリグマンは、人間の研究も加え、うつ病の無力感モデルの理論的基礎を確立し、治療や予防への応用も試みました。近年では、ポジティブ心理学の提唱や、神経科学的な側面からの研究も進められています。

症状

学習性無力感に陥ると、以下のような症状が現れることがあります。

状況から抜け出すための努力を放棄する。
状況を改善できる可能性があっても、それを信じることができない。
* ストレスや苦痛に対して、情緒的に混乱する。

これらの症状は、長期的な監禁、暴力、いじめ、モラルハラスメントなど、個人の尊厳や価値が否定される状況に置かれた場合に特に顕著に現れます。学習性無力感は、拉致監禁被害者、家庭内虐待の被害者、学校でのいじめ、ブラック企業での労働など、様々な状況下で見られる行動の心理的根拠を説明する理論として注目されています。

伝染

学習性無力感は、直接的な経験だけでなく、他者がコントロール不可能な状況に陥っているのを見るだけでも学習されることがあります。これは、アルバート・バンデューラの提唱したモデリングの一例です。人間においては、集団的無力感も起こり、小さなグループが解決不可能な問題に直面した場合、他のグループさえも解決可能な問題の解決に失敗することがあります。

治療

学習性無力感の治療には、認知行動療法が有効とされています。具体的には、「反応しても無駄である」という信念を変えることを目指します。また、自尊心を回復したり、行動の結果を認識させたり、失敗は別の理由で起こったと説明し励ましたりすることも効果的です。

特別支援教育における問題

特別支援教育の現場では、特に病弱な児童・生徒において、学習性無気力が問題視されています。生活制限や学習機会の制約、教師との一対一の授業による学習成果の発揮機会の不足などから、失敗体験を繰り返してしまうことがあります。これを防ぐためには、他の児童・生徒との交流の場を設けたり、成功体験を積み重ねるための場を設けるなど、周囲の配慮が重要です。

学習性無力感は、放置すれば深刻な状態に陥る可能性がありますが、適切な理解と支援によって克服することができます。周囲のサポートと、本人の努力によって、無力感から脱却し、より良い生活を送ることが可能です。

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