宇津ノ谷峠

宇津ノ谷峠：歴史と文化が息づく古道

宇津ノ谷峠は、静岡県静岡市と藤枝市の境に位置する、標高約151メートルの峠です。古くから交通の要衝として栄え、その歴史は古代にまで遡ります。この峠は、国道1号や旧東海道が通る場所であり、人々の往来を見守ってきました。また、歌川広重の浮世絵や文学作品にも登場し、その名は広く知られています。

地理と歴史

宇津ノ谷峠は、南アルプスから駿河湾へと続く尾根の一部に位置しています。この尾根をさらに太平洋側へ進むと、日本坂のトンネル群がある場所に行き着きます。古代には、太平洋側の日本坂が主要な交通路でしたが、平安時代に小川駅が廃止されたことで、宇津ノ谷の蔦の細道が新たなルートとなりました。豊臣秀吉の小田原征伐の際には、蔦の細道が軍勢の通行に適さなかったため、現在の旧東海道のルートが整備されることになりました。

江戸時代に入ると、宿場や参勤交代の制度とともに、東海道が整備されました。宇津ノ谷峠周辺には、鞠子宿と岡部宿が設けられ、峠付近にも宿や商店が立ち並び、間の宿としての役割を果たしました。歌川広重の浮世絵『東海道五十三次』では、この峠が描かれ、その風景が広く知られるようになりました。

明治時代には、文明開化とともに東海道の交通量が増加しました。地元の有力者がトンネルの掘削を計画し、1876年には日本初の有料トンネルが開通しました。しかし、この初代トンネルは後に崩落し、現在の明治宇津ノ谷隧道が建設されました。その後、自動車の普及に伴い、昭和時代にはさらに複数のトンネルが建設され、現在の国道1号へと繋がっています。

峠越えのルート

宇津ノ谷峠には、以下のルートが存在します。

蔦の細道：宇津ノ谷峠越えの最も古い道で、『伊勢物語』に登場します。豊臣秀吉による東海道開通以降は忘れ去られていましたが、昭和時代に復元・整備されました。
東海道：豊臣秀吉が小田原征伐の際に開通させ、江戸幕府が再整備した道です。
宇津ノ谷隧道（明治のトンネル）：1876年に開通した最初のトンネルは崩落しましたが、その後1904年に改築され、現存する最古のトンネルです。徒歩でのみ通行可能です。
宇津ノ谷隧道（昭和第一トンネル）：1930年に開通した2本目のトンネルです。現在は県道として利用されています。
新宇津ノ谷隧道（昭和第二トンネル）:1959年に開通。当初は対面通行でしたが、現在は上り線専用です。
平成宇津ノ谷トンネル：1998年に開通した4本目のトンネルで、下り線として利用されています。

これらのトンネル群は、「宇津ノ谷隧道群」として土木学会選奨土木遺産に選ばれています。

描かれた宇津山

宇津山は、多くの絵画や文学作品の題材となりました。特に有名なものとして、以下が挙げられます。

住吉如慶本『伊勢物語絵巻』：平安時代の歌物語『伊勢物語』に登場する宇津ノ谷峠が描かれています。
酒井抱一『宇津の山図』：在原業平と目される人物が、宇津山を越える場面が描かれています。
* 歌川広重『東海道五十三次之内 岡部 宇津之山』：宇津谷峠の風景が描かれ、東海道の旅情を伝えます。

これらの作品は、当時の宇津山の様子や、峠を行き交う人々の姿を今に伝えています。

詠われた宇津山

宇津山は、多くの和歌にも詠まれてきました。「うつ」という言葉が「うつつ（現実）」に通じることから、和歌には様々な想いが込められています。

例えば、『伊勢物語』には、「するがなるうつのやまべのうつゝにも 夢にも人にあはぬなりけり」という歌があります。これは、駿河国にある宇津の山にきて、現実でも夢でも恋しい人に会えないという、切ない想いを詠んだものです。

伝説と文化

宇津ノ谷には、食人鬼の伝説や、鼻取り地蔵の話が伝わっています。また、宇津ノ谷の十団子は、厄除けの団子として古くから知られ、この地の名物となっています。

ゆかりのある人物

うなぎパイで有名な春華堂の創業者の生家は、江戸時代から明治時代初期にかけて、この峠で茶屋を営んでいたと言われています。

日本遺産

2020年には、東海道宇津ノ谷に関する史跡や文化財群が、日本遺産の構成文化財として認定されました。これにより、宇津ノ谷峠は、日本の歴史と文化を伝える重要な場所として、さらに注目を集めることになりました。

宇津ノ谷峠は、その歴史と文化、そして美しい自然が織りなす魅力的な場所です。この峠を訪れ、古代から現代までの歴史を感じてみてはいかがでしょうか。

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