宇都宮仙太郎

宇都宮仙太郎（うつのみや せんたろう）は、慶応2年（1866年）4月14日（新暦5月28日）に豊後国下毛郡大幡村（現在の大阪府ではなく大分県中津市）で、養蚕業を営む武原文平、ヤス夫妻の二男として生を受け、昭和15年（1940年）3月1日にその生涯を終えました。彼は日本の近代酪農業において非常に重要な人物であり、特に北海道酪農の黎明期に多大な貢献をしたことから「北海道酪農の父」と称されています。

少年時代を過ごした故郷には小学校がなく、同郷の先輩である賀來素吉から、漢籍や歴史書の素読に加え、彼が熱心なキリスト教徒であったことからその教えにも触れました。また、同じ中津出身の偉人、福沢諭吉の著書を熱心に読みふけったと伝えられています。明治10年（1877年）、村に初めて小学校が開設されると、そこで一年間学び、その後中学校へと進みました。

明治15年（1882年）、政治家を志して上京し共立学校に入学しましたが、多くの若者が同じ夢を追っている現実を知り、政治家への道を断念しました。その後の進路を模索する中で畜産業に興味を抱き、福沢諭吉の推薦を得て、明治18年（1885年）にエドウィン・ダンが開設した札幌の真駒内牧牛場で牧童として働き始めました。ここでは町村金弥が場長を務めていました。

酪農の先進技術を学ぶため、明治20年（1887年）4月に渡米しました。ワシントン州のデビス牧場で初めてホルスタイン牛を目にし、その後イリノイ州のガラー牧場へ移り、本格的なバターやチーズの製造技術を習得しました。この頃は酪農専門誌『ホーズデアリーマン』を愛読し、知識を深めました。さらに最先端の酪農理論を学ぶため、ウィスコンシン州立大学で牧夫として働きながら学生としても学びました。

明治23年（1890年）に帰国すると、かつての上司である町村金弥の招きに応じ、蜂須賀茂韶が雨竜に所有する蜂須賀農場に勤務しました。華族組合雨龍農場の建設事業に携わりますが、残念ながらこの計画は中止となりました。

翌明治24年（1891年）、札幌に戻り北1条西16丁目に自身の牧場「宇都宮牧場」を開設しました。同時に、他の乳牛業者と協力して日本最初の酪農組合とされる「札幌牛乳搾取業組合」を設立し、飼料の共同購入などに取り組みました。その後一時東京へ移り、麹町で牛乳搾取業「回陽舎」を開業しました。

明治30年（1897年）、再び北海道へ戻り、アメリカからホルスタイン牛20頭余りを輸入しました。これにより、札幌で牛乳販売に加え、北海道で初めて民間によるバターの製造を開始しました。

明治35年（1902年）には、札幌郊外の白石村上白石（現在の白石区菊水）に広大な土地を取得し、アメリカ式の牛舎やサイロを備えた当時としては画期的な牧場を建設しました。これは、日本における本格的な酪農経営の先駆けとなるものでした。この牧場では、後に雪印乳業の創業者の一人となる黒澤酉蔵が牧夫見習いとして宇都宮に師事しました。

宇都宮は、牛飼いには三つの大切な徳（得）があるという「牛飼三徳」を唱えました。それは「役人に頭を下げなくてもよい自由」、「動物が相手だから嘘をつかなくてもよい誠実さ」、そして「牛乳は日本人の体格を向上させ、健康にするという社会貢献性」です。この言葉は、当時彼の元で働いていた黒澤酉蔵に大きな感銘を与えたと言われています。

大正14年（1925年）5月17日には、デンマークの協同組合を範として、後の雪印乳業（現在の雪印メグミルク）へと発展する「北海道製酪販売組合」を設立しました。これは、生産者自らが流通・販売を手がけることで経営を安定させ、酪農を発展させようとする強い意思の表れでした。

宇都宮仙太郎は札幌組合基督教会（現在の日本基督教団北光教会）で洗礼を受けた敬虔なクリスチャンでした。また、娘婿には酪農学園大学で教鞭をとった出納陽一がいます。

彼の酪農への情熱と多大な功績を称え、昭和43年（1968年）には、北海道の優れた酪農家へ贈られる「宇都宮賞」が創設され、今日まで続いています。宇都宮仙太郎の築いた基盤の上に、日本の酪農業は発展していったのです。

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