安全ピン

安全ピンは、複数枚の布を固定するために使用される金属製の器具です。その主な用途は、布同士を留めることや、衣服にバッジなどを取り付けることです。一般的な留め針とは異なり、安全ピンは鋭い針の先端を金具の中に格納する構造を持つため、使用中に誤って体や指を傷つけるリスクを低減しています。

安全ピンは、針の部分と、針先を収納する留め金の部分から構成されており、根本に取り付けられたバネによって、留め金に固定されていない状態では針が常に開くように設計されています。このバネの存在が、古代の安全ピン（フィブラ）とは異なる特徴となっています。

起源

安全ピンの原型は、紀元前14世紀のミケーネ文明にまで遡ります。当時、「フィブラ」と呼ばれるブロンズなどの金属製の留め金が使用されていました。このフィブラは、現在の安全ピンと同様の目的で使用され、初期のものは現代の安全ピンとほぼ同じ外観をしていました。フィブラは古代ローマ時代まで広く使われ、衣服を留めるだけでなく、エナメル、珊瑚、宝石などを装飾としてあしらった装身具やブローチとしても使用されました。

その後、安全ピンは一時的に忘れ去られましたが、1849年7月、アメリカの発明家ウォルター・ハントによって再発明されました。ハントは、借金を抱えていた際に金具をいじっていたことがきっかけで安全ピンを発明したと言われています。特許は借金返済のために400ドルで売却されました。

パンク・ファッション

安全ピンは、単なる日用品としてだけでなく、パンク・ファッションの象徴としても用いられます。1970年代半ば以降のイギリスでは、安全ピンは労働者階級の若者たちの反抗的な姿勢を象徴するアイテムとして使われるようになりました。アメリカのシンガーソングライター、リチャード・ヘルが、髪を尖らせ、安全ピンで留めた服を着ていたスタイルが、マルコム・マクラーレンによってイギリスに紹介され、セックス・ピストルズのファッションに取り入れられたことが、パンクファッションにおける安全ピンの普及に繋がりました。

連帯の意思表示

2016年、イギリスでは、国民投票でEU離脱が決定した後、移民に対するヘイトクライムが増加したとされています。これに対し、攻撃の対象となった移民との連帯を示すために、衣服に安全ピンを付ける運動が起こりました。この運動は、イギリスからアメリカにも広がり、ドナルド・トランプ氏の大統領選挙勝利後には、アメリカでも同様の連帯運動が展開されました。

まとめ

安全ピンは、古代から現代まで、その形を変えずに、実用的な道具として、そして文化的な象徴として、さまざまな場面で活用されています。その起源は古代に遡り、再発明によって現代的な形になり、ファッションや社会運動の象徴として使われるなど、時代を超えて人々に影響を与え続けています。

脚注

フィブラ
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