安東の戦い

安東の戦い

安東の戦い（アンドンのたたかい）は、1950年7月、朝鮮戦争中に発生した大韓民国軍（以下、韓国軍）と朝鮮人民軍（以下、人民軍）による戦闘である。この戦いは、韓国軍の防衛線が崩壊し、洛東江への撤退を余儀なくされる重要な局面となった。

戦闘の経緯

1950年7月6日、韓国軍第8師団は丹陽に進出し、南漢江沿いに防御陣地を構築し、人民軍第8師団の侵攻を阻止しようとした。しかし、兵力と火力の不足から南漢江の防御線は突破され、7月12日には豊基に撤退を余儀なくされた。その後、V字型の陣地を占領し、7月13日には人民軍第8師団を撃破したが、人民軍は攻撃部隊を第12師団に交代させ、戦車部隊を増強し、韓国軍を挟撃する作戦に転じた。

韓国軍第8師団は豊基と栄州での防衛戦で人民軍の侵攻を12日間遅らせることに成功したが、2個師団に挟撃され、7月24日に甕泉、安東へと撤退した。韓国軍第1軍団は第8師団と首都師団を隷下に加え、7月25日に安東に移動したが、首都師団は隷下の連隊が他の師団に配属されており、戦力は大きく低下していた。

人民軍は、大田占領後、第4次作戦に転換し、永同、咸昌、安東地域の国連軍防御集団の撃滅と洛東江の迅速な渡河を目標とした。主攻部隊ではなく、中部戦線に戦力を集中させ、韓国軍への圧力を強めた。

両軍の部隊編成

韓国軍

第1軍団
軍団長：金弘壹少将
首都師団
師団長：金錫源准将
第1連隊：連隊長　尹春根中領
第8師団
師団長：李成佳大領
第10連隊：連隊長　高根弘中領
第16連隊：連隊長　文容彩大領（7月28日から金東洙中領）
第21連隊：連隊長　金容培大領

人民軍

第2軍団
軍団長：武亭中将
第12師団
師団長：崔春国少将

戦闘の経過

7月25日、第8師団は甕泉で人民軍第12師団と対峙し、乃城川に防御線を形成したが、7月28日に突破された。第8師団は、甕泉と安東に二重の防御線を構築し、遅滞戦闘を行った。

7月31日、首都師団第1連隊は安東に移動し、第8師団の撤退を掩護する任務を与えられた。同日夕方時点で、韓国軍は、第8師団が安東北側8キロの線を、首都師団第1連隊が安東西側12キロの下枝山-265高地を防御していた。

安東撤収作戦

7月31日午後7時、韓国軍は洛東江防御線への撤退命令を受けた。この命令は、部隊に10時間以内に現陣地を撤収し、洛東江を渡って新しい陣地を占領することを求めていた。しかし、渡河地点は安東人道橋と鉄橋に限られており、部隊が撤退を完了するには時間が不足していた。さらに、橋を爆破する前に市民の避難を完了させる必要があった。

作戦命令は英文で、オーバーレイは軍団が所持していた地図と縮尺が合わず、翻訳と照合に時間を要し、作戦の起案が遅れた。軍団司令部では、首都師団と第8師団の参謀長が集まり協議が行われたが、それぞれの師団の優先撤退を主張し、夜間撤退そのものへの懐疑的な意見も出たため、議論は難航した。最終的に、金弘壹少将が「首都師団の掩護下に第8師団が撤退せよ」と決定したが、参謀長・崔徳新大領は「自分の師団は自分で援護しながら後退しろ」と付け加えた。

首都師団は、隷下の連隊が他部隊に配属されていたため、第1連隊しか残っていなかった。さらに、金錫源准将は「何という無謀な作戦指示だ！」と激怒し、一時的に混乱が生じた。首都師団司令部が砲撃されると、金錫源准将は第1連隊に第8師団の掩護を命じ、司令部を洛東江南岸に移動させた。

第1連隊は安東市内に後退したが、午前4時頃には人民軍に突破された。第8師団では、人民軍の圧力が比較的弱かった第10連隊は素早く離脱したが、第21連隊は分散状態で後退し、約1個大隊が取り残された。第16連隊は、撤退命令が伝わらず、大きな損害を出した。

橋の爆破と撤退

取り残された部隊は安東市内に集まり、橋付近の人民軍を攻撃していた。午前8時頃、人民軍が橋に接近したため、人道橋は爆破された。北岸に取り残された部隊は鉄橋の方に移動したが、人民軍の掃射によってそれも不可能となり、鉄橋も爆破された。

取り残された部隊は浅瀬を求めて渡河を開始したが、水深が深く、急流に加え、人民軍の射撃もあり、多くの溺死者が出た。第16連隊は連隊長以下260人しか渡河できず、他の連隊も大きな損害を被った。

戦闘後

安東の戦いの責任を取り、李成佳大領と金錫源准将の両師団長は更迭された。後任には、それぞれ崔徳新大領、白仁燁大領が就任した。安東を占領した人民軍第12師団は安東師団の称号を与えられたが、この戦闘で師団長の崔春国少将は戦死し、後任には崔仁斗少将が就任した。

出典

参考文献

佐々木春隆『朝鮮戦争/韓国篇 下巻 漢江線から休戦まで』原書房、1977年。
최용성 (2004). “6·25전쟁시 안동철수작전이 동부전선에 미친 영향” (PDF). 軍事硏究 (韓国陸軍本部) 120: 261-278.

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