崔徳新

崔徳新（チェ・ドクシン）：激動の時代を生きた軍人・政治家

崔徳新（チェ・ドクシン、1914年9月17日 - 1989年11月16日）は、大韓民国（韓国）と朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）の両方で重要な役割を果たした人物です。彼は軍人、政治家として活動し、その生涯は朝鮮半島の分断という歴史に大きく影響されました。

生い立ちと初期の軍歴

1914年、平安北道義州で生まれた崔徳新は、父が満州の学校の校長をしていた関係で、幼少期に中国で過ごしました。中央陸軍軍官学校を卒業後、国民政府軍事委員会でドイツ語翻訳に従事し、その後、軍の作戦参謀としてキャリアをスタートさせました。
太平洋戦争勃発時には、光復軍の宣伝課長や新編部隊の幹部を務め、終戦後は朝鮮籍兵士を率いて帰国しました。

韓国での軍歴と政治活動

帰国後、崔徳新は韓国軍に入隊し、警備士官学校を経て、連隊長や陸軍士官学校校長を歴任しました。この時期には、後の大統領となる朴正煕も彼の教えを受けています。アメリカへの留学後、第1軍団参謀長や師団長を経験。朝鮮戦争では、後方ゲリラ討伐の任務に就きましたが、この際に発生した居昌良民虐殺事件などの責任を問われ、師団長を辞任しました。

休戦会談では韓国代表を務めましたが、李承晩大統領の意向で署名を拒否したという逸話が残っています。その後、第1軍団長に就任しましたが、父が北朝鮮で要職に就いていたことから、自身の立場を危惧し、父が拉致されたと主張しました。予備役編入後は、ベトナム工作に関与。5・16軍事クーデターを支持し、維新勢力の正当性を宣伝する親善使節団を務めました。その後、外務部長官、駐西ドイツ大使などを歴任しましたが、実質的な交渉は他の人物が握っていたとされます。

宗教活動と政治的転換

大使退任後、崔徳新は宗教活動に力を注ぎ、天道教の教領に就任。その影響力を背景に大統領選挙を支援しましたが、維新体制下でその役割を終え、資金援助も打ち切られました。その後、朴正煕政権への疑念を深め、日本や台湾を経てアメリカへ亡命しました。亡命後には、朴正煕政権を批判する声明を発表し、故郷である北朝鮮へのシンパシーを強めていきました。

北朝鮮への亡命と晩年

1986年、崔徳新は妻と共に北朝鮮へ亡命し、天道教青友党中央委員長や祖国平和統一委員長など、数々の要職を歴任しました。北朝鮮では祖国統一賞を受賞し、1989年に死去。国葬をもって愛国烈士陵に埋葬されました。

崔徳新の生涯の意義

崔徳新の生涯は、朝鮮半島の分断という歴史の大きなうねりの中で、複雑な選択を迫られた一人の人間の軌跡を描いています。彼は、軍人、政治家、宗教指導者として多様な顔を持ち、その行動は常に時代の変化に左右されました。韓国と北朝鮮、両方の体制に関わった経験を持つ彼の存在は、現代史を深く理解するための重要な視点を提供します。

年譜

1936年：中央陸軍軍官学校卒業
1937年：陸軍歩兵少尉
1942年：新編第38師新兵営少校営長
1944年：韓国臨時政府外務部秘書
1945年：新編第1軍上校参謀、光復軍広東暫編支隊長
1946年：帰国
1947年：警備士官学校特別第3期卒業、任大尉、第6連隊大隊長
1947年：第2連隊長
1948年：警備士官学校校長、陸軍士官学校に改称、陸軍大領
1949年：第3旅団長、師団に昇格、アメリカに留学
1950年：フォート・ベニング歩兵学校卒業、朝鮮戦争勃発、第1軍団参謀長、第8師団長、陸軍本部高級副官、陸軍准将、第11師団長
1951年：陸軍予備士官学校校長、陸軍大学副校長
1952年：陸軍歩兵学校校長、第1軍団副軍団長
1953年：陸軍少将、休戦会談代表、国防部第1局長
1954年：陸軍本部企画参謀副長
1955年：第1軍団長、任中将
1956年：予備役
1958年：ベトナム大使
1961年：外務部長官
1963年：駐西ドイツ大使
1967年：天道教教領
1968年：在郷軍人会副会長
1969年：国土統一諮問委員会委員
1971年：韓中文化協会会長
1986年：北朝鮮へ亡命
1989年：死去

家族

息子のチェ・イングクは、韓国に残ったものの、経済的な困難に直面し、後に北朝鮮に移住しました。

著書

『民族と私-統一の道ひとすじに』
『南韓地で30年－民族分断の悲劇の中で』
* 『民族の活路を求め－民族の運命を思い』

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