安松京三

安松京三:天敵利用による害虫防除の先駆者



安松京三(1908年3月1日 - 1983年1月25日)は、日本の昆虫学者であり、九州大学名誉教授でした。彼は、天敵を利用した害虫防除の分野における日本の草分け的存在として知られています。

生涯と業績



安松京三は1908年東京に生まれました。幼少期から昆虫をはじめとする自然科学全般に深い興味を持ち、その探究心は生涯にわたり衰えることはありませんでした。修猷館、福岡高等学校を経て、九州帝国大学農学部に入学し、昆虫学を専攻しました。

1928年には、福岡高等学校在学中に学内の昆虫愛好家を集めて「福岡高等学校 虫の会」を創設し、機関誌『むし』を創刊しました。この活動は、彼の研究者としての原点とも言えるでしょう。

1933年に九州帝国大学農学部を卒業後も、昆虫学教室に留まり、ハチの分類、ナナフシノミなどの研究に没頭しました。1945年には、ナナフシの成長解析に関する研究をまとめた論文で農学博士号を取得しています。

第二次世界大戦中には、ミクロネシアや中国山西省など海外での昆虫相調査に従事し、貴重な成果を挙げました。1942年には、九州帝国大学農学部昆虫学教室の助教授に就任しています。

安松京三の業績として特筆すべきは、ルビーロウカイガラムシを抑制する効果の高い寄生蜂、ルビーアカヤドリコバチ(Anicetus beneficus Ishii & Yasumatsu, 1954)の発見です。終戦間際に植物園のゲッケイジュの枝から発見されたこのハチは、柑橘類の大害虫であったルビーロウカイガラムシを数年で日本の主要なミカン産地から駆逐し、日本における害虫生物的防除の先駆的な成功例となりました。この研究は高く評価され、1953年に日本農学賞、1959年には朝日賞を受賞しています。

1958年、恩師である江崎悌三教授の死去に伴い、九州大学農学部昆虫学教室の教授に就任しました。1964年には、農学部に生物的防除研究施設を創設し、アジアで唯一の生物的防除専門の教育研究機関として、現在も活動を続けています。

安松京三の天敵研究は、1970年に著書『天敵 : 生物制御へのアプローチ』として集大成されました。この著書は、当時の日本において生物的防除の概要を学ぶための貴重な入門書として広く読まれました。

1961年には日本昆虫学会会長に就任し、1968年までその任を務めました。1971年には紫綬褒章を受章しています。

九州大学定年退官後も、FAOやJICAから東南アジア諸国に派遣され、天敵による害虫防除の指導に尽力しました。1971年には、ハリー・スコット・スミス賞(カリフォルニア大学)を受賞。1978年には勲三等旭日中綬章を受章しています。

1983年1月25日、閉塞性黄疸のため74歳で逝去。その功績を称えられ、正四位に叙されました。

著作


安松京三は、研究活動の傍ら、多くの著作を執筆しました。これらの著作は、専門家だけでなく一般の人々にも昆虫学の魅力を伝え、自然保護への意識を高める上で大きな役割を果たしました。

『蟻と人生』 (1948)
『蚤のたわごと』 (1948)
天敵の話』 (1956)
昆虫物語 : 昆虫と人生』 (1965)
天敵 : 生物制御へのアプローチ』 (1970)
共編著に『原色日本昆蟲圖説』(1939)など多数。

安松京三は、日本の昆虫学、特に天敵による害虫防除の分野に多大な貢献をした偉大な学者でした。彼の研究成果と教育活動は、後進の研究者たちに受け継がれ、日本の農業と環境保護に貢献し続けています。

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