生物的防除

生物的防除とは

生物的防除とは、農業や園芸において、作物を食い荒らす害虫の天敵を導入し、害虫の密度を下げる防除方法です。生物を利用した防除法全般を指す生物学的防除とは区別されます。

長所と短所

生物的防除の長所としては、以下のような点が挙げられます。

対象の害虫以外への影響が少ない
化学的防除と比較して残留毒性が低い
薬剤耐性がつきにくい
天敵が自ら害虫を探して防除するため、省力化に繋がる

一方で、短所としては以下の点が挙げられます。

対象となる害虫が限定される
環境要因によって効果が左右されやすい
効果が現れるまでに時間がかかり、適切な使用時期を見極めるのが難しい
生物農薬は価格が高く、保存が難しい
導入した種が在来生物を捕食し、生態系を破壊する可能性がある（外来種問題）

利用される生物

生物的防除に利用される生物は、大きく分けて以下の4つに分類されます。

捕食者: テントウムシ類など、害虫を直接捕食する生物
捕食寄生者: コバチ類など、害虫に寄生して内部から捕食する生物
寄生性線虫: Steinernematidae属など、害虫に寄生する線虫
病原微生物: BT剤など、害虫に病気を引き起こす微生物

害虫と天敵の関係

生物的防除における害虫と天敵の関係には、以下の4つの組み合わせがあります。

侵入害虫と導入天敵
侵入害虫と土着天敵
土着害虫と導入天敵
土着害虫と土着天敵

アメリカなどでの成功例の多くは、「侵入害虫と導入天敵」または「土着害虫と導入天敵」の組み合わせです。日本で導入される生物農薬の多くは輸入品であり、農薬取締法によって規制されています。生物農薬による防除は、ビニールハウスのような密閉空間で行われることが多く、期待される防除期間も短期的なものです。化学農薬と比較して効果が現れるまでに時間がかかり、害虫と天敵の生態バランスが崩れると、害虫が大量発生するリスクもあります。そのため、化学農薬との併用が基本となる場合があります。

1980年代以降は、天敵生物が生息しやすい環境を整え、天敵生物を持続的に維持・供給するバンカー法の研究が進められています。また、露地栽培や果樹園などの開放的な農場では、土着天敵の利用が適しているため、フェロモン剤や選択性殺虫剤といった環境負荷の低い防除手段と併用する事例が増えています。

歴史

生物的防除のアイデアは古くから存在し、304年に中国で著された『南方草木状』には、害虫防除のためにアリを導入した記録があります。近代的な生物的防除研究は、1880年代にアメリカのカリフォルニア州でベダリアテントウを利用したイセリアカイガラムシの防除が成功したことがきっかけとなり、世界各地で天敵の研究が盛んになりました。日本でも1909年に素木得一がベダリアテントウを台湾に導入し、その後静岡県に移入して成果を上げました。第二次世界大戦後の化学農薬の普及によって研究は一時下火になりましたが、環境問題の深刻化や薬剤耐性害虫の出現によって、再び注目を集めるようになりました。

代表的な天敵および生物農薬

BT剤 - チョウ目に卒倒病を引き起こす
オンシツツヤコバチ（Encarsia formosa） - オンシツコナジラミの天敵
チリカブリダニ - ナミハダニの天敵
ベダリアテントウ - イセリアカイガラムシの天敵
ルビーアカヤドリコバチ - ルビーロウムシの天敵
チュウゴクオナガコバチ - クリタマバチの天敵
ヤノネキイロコバチ、ヤノネツヤコバチ - ヤノネカイガラムシの天敵

関連項目

総合的病害虫管理
応用昆虫学、天敵昆虫学
合鴨農法
ビートルバンク - 害虫を駆除する肉食の虫が生息する草地
* 国際生物防除機構

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