安藤照
安藤照（あんどう てる）は、明治25年（1892年）に生まれ、昭和20年（1945年）5月25日に逝去した、日本の近代彫塑を代表する彫刻家の一人です。
鹿児島市新屋敷通町（現在の鹿児島市立病院敷地の一角には、安藤の誕生の地を示す碑が建てられています）に生を受けた安藤は、明治40年（1907年）に旧制県立川辺中学校へ入学しますが、まもなく旧制県立第二中学校へ転校しました。学業に時間を要し、8年を経て同校を卒業した後、東京美術学校へと進学します。美術学校在学中に早くも帝展で入選を果たすなど才能の片鱗を見せ、卒業後も第3回、第5回、第6回帝展にて特選を受賞し、その実力を確固たるものとしました。大正15年（1926年）の第7回帝展では、特選に加えて帝国美術院賞を受賞するという栄誉に浴しています。翌昭和2年（1927年）には、彫刻家としての地位を認められ、帝展の審査員に就任しました。安藤は、彫刻の根源的な造形性、特に量感豊かな表現の重要性を説き、自身の作品にもその思想を反映させました。
この頃、安藤は彫刻家・朝倉文夫が主宰する朝倉塾に所属していました。しかし、昭和3年（1928年）10月、朝倉が帝展に制度改革案を提言し、その上で審査員を辞任するという行動をとったことがきっかけで、塾の同志たちと共に朝倉の姿勢を批判し、彼と袂を分かつこととなりました。その後、安藤は昭和4年（1929年）に新たな彫刻家集団「塊人社」を結成し、活動の場を広げていきます。
安藤照の代表作として広く知られているのが、鹿児島市城山公園に立つ西郷隆盛像と、渋谷駅前の忠犬ハチ公像です。
西郷隆盛像は、昭和3年（1928年）に旧薩摩藩出身の海軍大将・東郷平八郎からの依頼を受けて制作が始まりました。制作にあたっては、西郷の体格や外見を徹底的に研究するために1年を費やし、さらに国内の古美術や各地の銅像を見学して1年をかけました。加えて、銅像研究を深めるため欧州へ渡るなど、入念な準備を行いました。こうした詳細な調査に基づき、「身長5尺9寸（約179cm）、体重29貫（約109kg）、襟首19インチ（約48cm）」という具体的な体格像に到達し、肥満ながら引き締まった肉つき、相撲による耳だこ、短い首と盛り上がった肩といった身体的特徴を把握しました。安藤がこの像に込めた構想は、故郷・鹿児島の地に、市民と同じ地に足をつけ、胸を張って桜島と向き合う偉大な人物像でした。こうした緻密な準備と構想を経て、銅像は昭和12年（1937年）に完成を迎えました。土台の製作にも工夫が凝らされ、鹿児島県肝属郡南大隅町（旧小根占）から大小合わせて150個以上の花崗岩が運ばれ、背景の城山と有機的に調和するような小山が築かれ、周囲は造園されました。
西郷像のモデルについては諸説あります。安藤自身は著書『大西郷と銅像』（改造第十九巻九号、1937年）の中で、西郷の体格を詳細に記すとともに、彼の孫である西郷隆治氏が西郷の大将服を着用した際に綿を足す必要があったことや、二人入れるほどの胴回りだったことに触れています（隆治氏は安藤が卒業した旧制二中の後輩であり、柔道師範でした）。また、作家の海音寺潮五郎は著書『西郷隆盛』にて、安藤が西郷隆治氏をモデルにアレンジして造形した可能性を指摘しています（隆治氏は西郷の息子・菊次郎の子で、西郷によく似ているとされていました）。しかし、2008年の南日本新聞の記事では、元・山形県議の男性がモデルであった可能性が報じられました。安藤のアトリエで撮影された写真が男性の遺族宅で見つかり、その中のひな型や肖像画に写る人物がモデルではないかとの見方があり、遺族は「（祖父の）目は隆治さんに似ていると思う」とも述べています。
忠犬ハチ公像は、日本犬保存会の斎藤弘吉が寄稿した記事をきっかけに忠犬ハチ公が広く知られるようになった昭和7年（1932年）頃、斎藤と旧知の仲であった安藤がその制作を強く希望したことから始まりました。制作の意向を伝え、日本犬保存会からの正式な依頼を受けて制作にあたったとされています。モデルとなったハチは、当時の飼い主であった小林菊三郎氏が、自宅があった代々木富ヶ谷から初台にあった安藤のアトリエまで毎日連れて通ったといいます。初代ハチ公像は昭和9年（1934年）4月21日に渋谷駅前に設置され、除幕式にはハチ自身（ハチは像完成の翌年の昭和10年3月に死去）を含む300人もの著名人が参加しました。しかし、この像は第二次世界大戦中の昭和19年（1944年）に金属供出により撤去され、終戦前日の昭和20年8月14日に溶解されて機関車の部品の材料に充てられました。現在、渋谷駅前に立つハチ公像は二代目にあたります。資材不足の中、安藤の作品「大空に」を溶解した銅を用いて、安藤の息子である安藤士氏によって制作され、昭和23年（1948年）に完成したものです。
安藤照は、昭和20年（1945年）5月25日、アメリカ軍による東京大空襲の犠牲となり、54歳で非業の死を遂げました。墓所は鹿児島市草牟田墓地にあります。
息子の安藤士氏もまた彫刻家であり、二代目ハチ公像の制作に携わっています。また、舞踊家の宮操子をモデルにした作品「めばえ」は第5回帝展で特選に選ばれ、「大空に」は第7回帝展で特選と帝国美術院賞を受賞するなど、彼にとって重要な作品のモデルとなりました。
鹿児島市新屋敷通町（現在の鹿児島市立病院敷地の一角には、安藤の誕生の地を示す碑が建てられています）に生を受けた安藤は、明治40年（1907年）に旧制県立川辺中学校へ入学しますが、まもなく旧制県立第二中学校へ転校しました。学業に時間を要し、8年を経て同校を卒業した後、東京美術学校へと進学します。美術学校在学中に早くも帝展で入選を果たすなど才能の片鱗を見せ、卒業後も第3回、第5回、第6回帝展にて特選を受賞し、その実力を確固たるものとしました。大正15年（1926年）の第7回帝展では、特選に加えて帝国美術院賞を受賞するという栄誉に浴しています。翌昭和2年（1927年）には、彫刻家としての地位を認められ、帝展の審査員に就任しました。安藤は、彫刻の根源的な造形性、特に量感豊かな表現の重要性を説き、自身の作品にもその思想を反映させました。
この頃、安藤は彫刻家・朝倉文夫が主宰する朝倉塾に所属していました。しかし、昭和3年（1928年）10月、朝倉が帝展に制度改革案を提言し、その上で審査員を辞任するという行動をとったことがきっかけで、塾の同志たちと共に朝倉の姿勢を批判し、彼と袂を分かつこととなりました。その後、安藤は昭和4年（1929年）に新たな彫刻家集団「塊人社」を結成し、活動の場を広げていきます。
安藤照の代表作として広く知られているのが、鹿児島市城山公園に立つ西郷隆盛像と、渋谷駅前の忠犬ハチ公像です。
西郷隆盛像は、昭和3年（1928年）に旧薩摩藩出身の海軍大将・東郷平八郎からの依頼を受けて制作が始まりました。制作にあたっては、西郷の体格や外見を徹底的に研究するために1年を費やし、さらに国内の古美術や各地の銅像を見学して1年をかけました。加えて、銅像研究を深めるため欧州へ渡るなど、入念な準備を行いました。こうした詳細な調査に基づき、「身長5尺9寸（約179cm）、体重29貫（約109kg）、襟首19インチ（約48cm）」という具体的な体格像に到達し、肥満ながら引き締まった肉つき、相撲による耳だこ、短い首と盛り上がった肩といった身体的特徴を把握しました。安藤がこの像に込めた構想は、故郷・鹿児島の地に、市民と同じ地に足をつけ、胸を張って桜島と向き合う偉大な人物像でした。こうした緻密な準備と構想を経て、銅像は昭和12年（1937年）に完成を迎えました。土台の製作にも工夫が凝らされ、鹿児島県肝属郡南大隅町（旧小根占）から大小合わせて150個以上の花崗岩が運ばれ、背景の城山と有機的に調和するような小山が築かれ、周囲は造園されました。
西郷像のモデルについては諸説あります。安藤自身は著書『大西郷と銅像』（改造第十九巻九号、1937年）の中で、西郷の体格を詳細に記すとともに、彼の孫である西郷隆治氏が西郷の大将服を着用した際に綿を足す必要があったことや、二人入れるほどの胴回りだったことに触れています（隆治氏は安藤が卒業した旧制二中の後輩であり、柔道師範でした）。また、作家の海音寺潮五郎は著書『西郷隆盛』にて、安藤が西郷隆治氏をモデルにアレンジして造形した可能性を指摘しています（隆治氏は西郷の息子・菊次郎の子で、西郷によく似ているとされていました）。しかし、2008年の南日本新聞の記事では、元・山形県議の男性がモデルであった可能性が報じられました。安藤のアトリエで撮影された写真が男性の遺族宅で見つかり、その中のひな型や肖像画に写る人物がモデルではないかとの見方があり、遺族は「（祖父の）目は隆治さんに似ていると思う」とも述べています。
忠犬ハチ公像は、日本犬保存会の斎藤弘吉が寄稿した記事をきっかけに忠犬ハチ公が広く知られるようになった昭和7年（1932年）頃、斎藤と旧知の仲であった安藤がその制作を強く希望したことから始まりました。制作の意向を伝え、日本犬保存会からの正式な依頼を受けて制作にあたったとされています。モデルとなったハチは、当時の飼い主であった小林菊三郎氏が、自宅があった代々木富ヶ谷から初台にあった安藤のアトリエまで毎日連れて通ったといいます。初代ハチ公像は昭和9年（1934年）4月21日に渋谷駅前に設置され、除幕式にはハチ自身（ハチは像完成の翌年の昭和10年3月に死去）を含む300人もの著名人が参加しました。しかし、この像は第二次世界大戦中の昭和19年（1944年）に金属供出により撤去され、終戦前日の昭和20年8月14日に溶解されて機関車の部品の材料に充てられました。現在、渋谷駅前に立つハチ公像は二代目にあたります。資材不足の中、安藤の作品「大空に」を溶解した銅を用いて、安藤の息子である安藤士氏によって制作され、昭和23年（1948年）に完成したものです。
安藤照は、昭和20年（1945年）5月25日、アメリカ軍による東京大空襲の犠牲となり、54歳で非業の死を遂げました。墓所は鹿児島市草牟田墓地にあります。
息子の安藤士氏もまた彫刻家であり、二代目ハチ公像の制作に携わっています。また、舞踊家の宮操子をモデルにした作品「めばえ」は第5回帝展で特選に選ばれ、「大空に」は第7回帝展で特選と帝国美術院賞を受賞するなど、彼にとって重要な作品のモデルとなりました。
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