安蘇馬車鉄道

安蘇馬車鉄道：設立から終焉まで

安蘇馬車鉄道は、明治時代に栃木県に存在した馬車鉄道です。その設立、経営状況、そして佐野鉄道への改変、最終的に東武鉄道に合併されるまでの歴史を詳細に解説します。

設立の背景

1887年（明治20年）4月、湧井藤七、内田熊五郎、吉沢浅太郎らは、葛生から佐野町を経て越名に至る「葛生鉄道」を計画しました。当初の計画では、蒸気機関車を用いる予定でしたが、その年の秋に馬を動力とする安蘇馬車鉄道へと変更され、資本金も大幅に減額されました。これは、両毛鉄道が佐野に接続する可能性が出てきたため、佐野で両毛鉄道に接続する路線を建設する計画に変更されたためです。

1888年（明治21年）2月に安蘇馬車鉄道の創立願が提出され、同年5月に免許が下りました。株主の多くは栃木県在住者で、特に安蘇郡の住民が多数を占めていました。内田熊五郎が社長に、湧井彦太郎が副社長に、吉沢浅太郎が取締役に就任しました。同年9月には起工式が行われ、1889年（明治22年）9月には葛生 - 佐野間で運転を開始しました。

経営状況

開業当初、馬と馭者の請負料が支出の大部分を占め、経営は厳しい状況でした。1889年（明治22年）7月に土地収用法が制定されると、用地買収費が高騰し、資本金を増資せざるを得なくなりました。1890年（明治23年）1月には佐野 - 越名間が開業し全通しましたが、直営にした馬と馭者の維持費が嵩み、経営状況はさらに悪化しました。

横断橋建設費やレール購入費が経営を圧迫し、会社は借金依存体質となりました。増資による資金調達も試みましたが、割引による不足資金を借入金で補填する状況が続きました。借金返済のために配当を減らすなどの対策も行われましたが、経営は改善せず、無配に転落し、経営は窮地に陥りました。

浅野セメントとの輸送契約

浅野総一郎が経営する浅野セメントが葛生に石灰石採掘場を開設したことで、安蘇馬車鉄道は石灰石輸送を担うことになりました。浅野セメントからの融資で軌道を延長し、輸送契約を結びました。石灰石輸送が始まると貨物収入は増加しましたが、輸送能力の限界や洪水の被害などにより、浅野セメントとの間で損害賠償の民事訴訟が発生しました。

佐野鉄道への改変とその後

岩下善七郎らは、蒸気機関車を導入することを提案し、1892年（明治25年）に蒸気鉄道への改築が決定されました。1893年（明治26年）4月に免許が下付され、1894年（明治27年）3月20日に佐野鉄道として営業を開始しました。しかし、青梅鉄道の全通により浅野セメントが青梅からの石灰石調達を優先するようになり、佐野鉄道の経営は再び悪化しました。

経営改善のため、佐野 - 館林間の新線建設を計画しましたが、資金調達が難航し断念。その後、東武鉄道との合併交渉が進められ、1912年（明治45年）7月に佐野鉄道は東武鉄道に合併されました。佐野 - 越名河岸間の区間は1917年（大正6年）3月に廃止されました。

安蘇馬車鉄道は、時代の変遷とともに姿を変え、最終的には東武鉄道佐野線の一部としてその名を残すことになりました。

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