安部修仁

安部修仁（あべ しゅうじ）氏は、1949年9月14日生まれの実業家であり、株式会社吉野家ホールディングスで会長と社長を歴任しました。その卓越した経営手腕から「ミスター牛丼」の異名を持ち、日本フードサービス協会会長や日本食レストラン海外普及推進機構副理事長などの要職も務めました。

生い立ちと音楽への夢

福岡県出身の安部氏は、福岡県立香椎工業高等学校を卒業後、大学進学はせずにプロミュージシャンを目指して上京しました。R&Bバンドを結成し活動する傍ら、生活費を稼ぐために吉野家でアルバイトとして働いていました。しかし、音楽の道を諦め、1972年に吉野家へ正社員として入社しました。この時の採用担当は、後に社長となる松田瑞穂でした。

吉野家でのキャリア

1977年からは九州地区本部長を務め、「アメリカ200店構想」の先兵としてアメリカ・イリノイ州へ語学留学も経験しました。しかし、1980年に吉野家が会社更生法を申請したため、帰国を余儀なくされます。1983年には取締役開発本部長に就任し、セゾングループの出資による再建に尽力。1988年には常務取締役、日本ダンキンドーナツ社長などを経て、1992年に42歳という若さで吉野家の代表取締役社長に就任しました。以降22年間にわたり、吉野家の経営を指揮し、「ミスター牛丼」と呼ばれるようになりました。

牛丼へのこだわりとBSE問題

安部氏は、牛丼の「早さ」と「安さ」を追求する単品主義を掲げ、営業利益率10%超という高い収益性を実現しました。しかし、2003年にアメリカでBSE問題が発生し、米国産牛肉の輸入が禁止されると、安部氏は「牧草で育てる豪州産牛では、別のテイストの牛丼になる」として米国産牛肉にこだわりました。国内の在庫が尽きた2004年2月11日からは、牛丼の販売を一時停止するという異例の決断をしました。24時間営業を再開したのは2008年のことです。

吉野家ホールディングス社長と退任

2007年10月に持株会社化に伴い、吉野家ホールディングス代表取締役社長に就任しました。事業会社分割により吉野家事業からは一時退きましたが、2010年4月には再び株式会社吉野家社長を兼任し、事業に復帰しました。2012年9月1日に吉野家ホールディングス社長を退任し、代表権を有する会長に就任しましたが、2014年5月にHD会長を退任。2014年8月31日には事業会社「吉野家」の社長からも退きました。退任時には、かつて倒産を経験した幹部たちも安部氏に合わせて退任したとされています。

その他の活動

2012年5月からは日本フードサービス協会の会長を務め、日本食レストラン海外普及推進機構の副理事長も務めました。

特筆すべき経歴

安部氏は、アルバイトから叩き上げで東証プライム（旧・1部）上場企業の社長に就任した稀有な人物です。同様の例としては、ブックオフコーポレーションの橋本真由美氏や井村屋グループの中島伸子氏、そして安部氏の後任社長である河村泰貴氏（安部氏と同じく高卒で社長に就任）などが挙げられます。

メディア出演と著書

安部氏は、テレビ番組「日経スペシャル カンブリア宮殿」に出演し、吉野家ホールディングス社長としての経営哲学を語りました。また、著書として『吉野家の牛丼280円革命』、『吉野家 〜もっと挑戦しろ! もっと恥をかけ!』、『大逆転する仕事術 就職、倒産、BSE問題、現在 倍返しできる人の発想法』などを出版しています。共著として『吉野家の経済学』、『吉野家で経済入門』も執筆しており、吉野家の経営や経済に関する情報を発信しています。

これらの書籍やメディア出演を通じて、安部氏は自身の経営哲学や逆境を乗り越える姿勢を示し、多くの人に影響を与えています。

もう一度検索