完全貴族要覧
『完全貴族要覧』（英語: The Complete Peerage of England, Scotland, Ireland, Great Britain, and the United Kingdom Extant, Extinct, or Dormant）は、イギリスの貴族に関する包括的な名鑑です。別名『貴族大鑑』とも呼ばれています。
この名鑑は初版と第2版が存在し、それぞれの版で異なる編集者が中心となって編纂されました。
初版は、クラレンス統括紋章官であったジョージ・エドワード・コケインによって編集され、1887年から1898年にかけて全8巻が出版されました。当初は学術誌『The Genealogist』の付録として刊行されましたが、後にコケインが自費出版する形となりました。コケインは約300部を印刷し、1巻あたり130〜140ポンドを費やしたとされています。初版は非常に好評で、1898年に第8巻が出版された時点では、第1巻の在庫が残り1冊という状況でした。初版の価格は1巻あたり1ポンド10シリング6ペンスでしたが、1909年には中古価格が50ポンドにまで高騰しました。
このような状況から、第2版の計画が早期に始まりました。コケインの甥であるヴィカリー・ギブスは、1895年頃から新版のための資料収集を開始し、コケインの同意を得て1908年に編集作業に着手しました。
第2版は、1910年から1959年という長期間にわたって刊行され、全12巻に及びました。さらに、1901年から1938年までに創設された爵位を収録した第13巻が1939年に、補遺となる第14巻が1998年に出版されました。第2版第1巻は1910年の出版直後から高い評価を受けました。コケインは1911年に死去しましたが、第2版の刊行は継続され、1916年には第4巻が出版されました。第4巻までの出版費用はギブスが負担していましたが、1919年頃から健康状態の悪化と費用の高騰により支払いが滞り、1926年には編集者の座を降りました（1932年死去）。
ギブスの後任として、ヘンリー・アーサー・ダブルデイが出版を主導しました。ダブルデイは第2版の出版社であるセント・キャサリンズ・プレスの創設者であり、1916年に『完全貴族要覧』の編集補佐、1920年に共同編集者に就任しました。ダブルデイは、古物収集家である第8代ハワード・デ・ウォルデン男爵トマス・スコット＝エリスを共同編集者に迎え、1941年に死去するまでに第6巻から第9巻、そして第13巻を出版しました。
ダブルデイとハワード・デ・ウォルデン男爵の尽力により、内容面では大きな問題は生じませんでしたが、出版資金の問題は依然として深刻でした。銀行家であったギブスとは異なり、ダブルデイは裕福ではなく、さらに第4巻までの出版費用は約6万ポンドに達し、第一次世界大戦の影響でさらに高騰しました。ダブルデイは当初、アメリカとカナダで研究費を募金しましたが、1922年には初代カウドレー子爵ウィートマン・ピアソンの助言を受け、社債を発行して16,400ポンドを集めました。この社債発行では、ハワード・デ・ウォルデン男爵が6,700ポンド分、カウドレー子爵が1,000ポンド分を購入しました。しかし、実際には募金に近い性質であり、利子がしばしば免除され、1936年には社債所有者全員が債権を放棄しました。
社債発行で得た資金は編集部の運営に充てられましたが、1926年には底を尽きました。同年、実業家のサー・ヘンリー・マラビー＝ディーリーが32,500ポンドの資金提供に同意し、1932年にはスタッフの減給が合意されましたが、マラビー＝ディーリーからの資金も1934年末には使い果たされました。長引く財政難の背景には、出版・販売形式の問題がありました。各巻の売れ行きは出版直後には約800〜900部でしたが、ダブルデイは3,500部の印刷を強く主張し、さらに各巻のばら売りを拒否しました。ばら売りが実現したのは、ダブルデイの死後である1959年のことでした。
財政難は、初代ナフィールド子爵ウィリアム・モリスが1938年に5万ポンドを寄付したことで、ある程度解消されました。しかし、第10巻の出版は第二次世界大戦の影響で延期され、1945年にようやく出版されました。ダブルデイは第10巻に必要な紙を事前に購入していましたが、1949年に出版された第11巻は、世界大戦によるインフレーションの影響で紙の価格が高騰し、費用が大幅に増加しました。物資統制により、金付けに必要な原材料の入手も困難でした。また、大戦中の1941年にダブルデイが死去し、後任の編集者としてジェフリー・ホワイトが就任しました。
ナフィールド子爵からの寄付はしばらくの間慎重に運用されましたが、編集部は世界大戦によるインフレーションにより再び財政難に陥り、付録の一部の作成が中止された上、1953年に出版された第12巻第1部では索引の出版計画の中止が発表されました。この決定は当時の紋章官全員が連名で批判するほどでしたが、資金不足の問題は深刻であり、編集部には最後の巻である第12巻第2部の出版費用すらありませんでした。貴族法専門の弁護士サー・ジェフリー・エリスらの寄付もあり、第12巻第2部は1959年に無事出版され、同巻で補遺巻の出版が約束されました。しかし、1960年には資金不足を理由に補遺巻の出版計画が放棄されました。ホワイトは1959年時点で87歳であり、視力を失っていたため、同年引退しました（1969年死去）。補遺巻の出版計画は1988年頃に復活し、最終的には1998年に出版に至りました。
第2版は当初12巻構成の予定でしたが、ナフィールド子爵など貴族へのアピールを目的として、1901年から1938年までに創設された爵位を収録した第13巻が出版されました。また、当初は1900年までの貴族のみを収録する方針でしたが、歴代編集者が1901年以降に爵位を継承した人物も収録したため、12巻に収まりきらず、第13巻が先に刊行されたこともあり、第12巻が2部に分割されることになりました。
この名鑑は初版と第2版が存在し、それぞれの版で異なる編集者が中心となって編纂されました。
初版の出版
初版は、クラレンス統括紋章官であったジョージ・エドワード・コケインによって編集され、1887年から1898年にかけて全8巻が出版されました。当初は学術誌『The Genealogist』の付録として刊行されましたが、後にコケインが自費出版する形となりました。コケインは約300部を印刷し、1巻あたり130〜140ポンドを費やしたとされています。初版は非常に好評で、1898年に第8巻が出版された時点では、第1巻の在庫が残り1冊という状況でした。初版の価格は1巻あたり1ポンド10シリング6ペンスでしたが、1909年には中古価格が50ポンドにまで高騰しました。
第2版の出版
このような状況から、第2版の計画が早期に始まりました。コケインの甥であるヴィカリー・ギブスは、1895年頃から新版のための資料収集を開始し、コケインの同意を得て1908年に編集作業に着手しました。
第2版は、1910年から1959年という長期間にわたって刊行され、全12巻に及びました。さらに、1901年から1938年までに創設された爵位を収録した第13巻が1939年に、補遺となる第14巻が1998年に出版されました。第2版第1巻は1910年の出版直後から高い評価を受けました。コケインは1911年に死去しましたが、第2版の刊行は継続され、1916年には第4巻が出版されました。第4巻までの出版費用はギブスが負担していましたが、1919年頃から健康状態の悪化と費用の高騰により支払いが滞り、1926年には編集者の座を降りました（1932年死去）。
ギブスの後任として、ヘンリー・アーサー・ダブルデイが出版を主導しました。ダブルデイは第2版の出版社であるセント・キャサリンズ・プレスの創設者であり、1916年に『完全貴族要覧』の編集補佐、1920年に共同編集者に就任しました。ダブルデイは、古物収集家である第8代ハワード・デ・ウォルデン男爵トマス・スコット＝エリスを共同編集者に迎え、1941年に死去するまでに第6巻から第9巻、そして第13巻を出版しました。
ダブルデイとハワード・デ・ウォルデン男爵の尽力により、内容面では大きな問題は生じませんでしたが、出版資金の問題は依然として深刻でした。銀行家であったギブスとは異なり、ダブルデイは裕福ではなく、さらに第4巻までの出版費用は約6万ポンドに達し、第一次世界大戦の影響でさらに高騰しました。ダブルデイは当初、アメリカとカナダで研究費を募金しましたが、1922年には初代カウドレー子爵ウィートマン・ピアソンの助言を受け、社債を発行して16,400ポンドを集めました。この社債発行では、ハワード・デ・ウォルデン男爵が6,700ポンド分、カウドレー子爵が1,000ポンド分を購入しました。しかし、実際には募金に近い性質であり、利子がしばしば免除され、1936年には社債所有者全員が債権を放棄しました。
社債発行で得た資金は編集部の運営に充てられましたが、1926年には底を尽きました。同年、実業家のサー・ヘンリー・マラビー＝ディーリーが32,500ポンドの資金提供に同意し、1932年にはスタッフの減給が合意されましたが、マラビー＝ディーリーからの資金も1934年末には使い果たされました。長引く財政難の背景には、出版・販売形式の問題がありました。各巻の売れ行きは出版直後には約800〜900部でしたが、ダブルデイは3,500部の印刷を強く主張し、さらに各巻のばら売りを拒否しました。ばら売りが実現したのは、ダブルデイの死後である1959年のことでした。
財政難は、初代ナフィールド子爵ウィリアム・モリスが1938年に5万ポンドを寄付したことで、ある程度解消されました。しかし、第10巻の出版は第二次世界大戦の影響で延期され、1945年にようやく出版されました。ダブルデイは第10巻に必要な紙を事前に購入していましたが、1949年に出版された第11巻は、世界大戦によるインフレーションの影響で紙の価格が高騰し、費用が大幅に増加しました。物資統制により、金付けに必要な原材料の入手も困難でした。また、大戦中の1941年にダブルデイが死去し、後任の編集者としてジェフリー・ホワイトが就任しました。
ナフィールド子爵からの寄付はしばらくの間慎重に運用されましたが、編集部は世界大戦によるインフレーションにより再び財政難に陥り、付録の一部の作成が中止された上、1953年に出版された第12巻第1部では索引の出版計画の中止が発表されました。この決定は当時の紋章官全員が連名で批判するほどでしたが、資金不足の問題は深刻であり、編集部には最後の巻である第12巻第2部の出版費用すらありませんでした。貴族法専門の弁護士サー・ジェフリー・エリスらの寄付もあり、第12巻第2部は1959年に無事出版され、同巻で補遺巻の出版が約束されました。しかし、1960年には資金不足を理由に補遺巻の出版計画が放棄されました。ホワイトは1959年時点で87歳であり、視力を失っていたため、同年引退しました（1969年死去）。補遺巻の出版計画は1988年頃に復活し、最終的には1998年に出版に至りました。
第2版は当初12巻構成の予定でしたが、ナフィールド子爵など貴族へのアピールを目的として、1901年から1938年までに創設された爵位を収録した第13巻が出版されました。また、当初は1900年までの貴族のみを収録する方針でしたが、歴代編集者が1901年以降に爵位を継承した人物も収録したため、12巻に収まりきらず、第13巻が先に刊行されたこともあり、第12巻が2部に分割されることになりました。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。