紋章官

紋章官（Officer of Arms）

紋章官は、君主や領主、国家によって任命され、特定の権限を与えられた役職です。その主な役割は以下の通りです。

紋章に関する事案の発議と管理監督
国家の儀式の手配と参列
紋章や系譜の記録保存と解釈

歴史的背景

紋章官の起源は、紋章制度が確立する以前のヘラルドに遡ります。ヘラルドは、軍使や伝令官として、また軍礼式担当官として活動していました。各国国王に直属したり、領主に雇われたりしていましたが、紋章制度の確立とともに紋章の管理も担うようになりました。

紋章制度の鉄則として、同一主権領内に同じ紋章が二つ以上存在してはならないというものがあります。そのため、各国は紋章の登録を推進しましたが、登録は必ずしも順調に進みませんでした。そこで、ヘラルドは軍使としての特権を利用し、各地の豪族を訪問して紋章を調査し、登録を促しました。ヘラルドは、自身がヘラルドであることを示すため、仕える国王や領主の紋章を大きく描いたタバードと呼ばれる上着を着用していました。

リチャード3世の時代には、イングランド紋章院が創設され、紋章の調査、登録、認可、訴訟など、紋章に関する一切の事務を取り扱うようになりました。英語では紋章官を意味する言葉として使われるようにもなりました。

紋章官の分類

紋章官には、伝統的に以下の3つの位があります。

キング・オブ・アームズ (King of Arms)：紋章院長官、紋章院部長などと訳される
ヘラルド・オブ・アームズ (Herald of Arms)：中級紋章官と訳される
パーシヴァント・オブ・アームズ (Pursuivant of Arms)：紋章属官、紋章官補などと訳される

任命された役職が終身である場合は常任紋章官、一時的または不定期な任命である場合は臨時紋章官となります。

貴族の家の成立に際してヘラルドまたはパーシヴァントを任ずる中世の習慣は、ヨーロッパ諸国、特に公的な紋章の管理または承認がない国でいまだにみられます。スコットランドでは、現在も4名の私設紋章官が存在します。

各国の紋章官

イギリス連邦諸国では、スコットランド、カナダ、南アフリカを除き、ロンドンの紋章院が紋章に関する業務を行っています。紋章院の常任紋章官は、キング・オブ・アームズ3名、ヘラルド・オブ・アームズ6名、パーシヴァント・オブ・アームズ4名の合計13名で構成され、王室の一員として給料が支給されます。キング・オブ・アームズのうち、ガーター主席紋章官が筆頭の地位にあります。

スコットランドでは、コート・オブ・ザ・ロード・ライアンにおいて、ロード・ライアン・キング・オブ・アームズ、3名のヘラルド、3名のパーシバントが紋章に関する事案を管理しています。ロード・ライアンは国王によって任命され、他のスコットランドの紋章官を任命する権限を持ちます。

アイルランドでは、紋章及び系譜の問題は、チーフ・ヘラルド・オブ・アイルランドの権限の範囲内に属します。しかし、1943年以降に承認、登録されたすべての紋章に対する法的根拠に司法長官が疑問を呈したため、2006年に系譜及び紋章法案が上程され、アルスター・キング・オブ・アームズからの権限の移行以来の活動を合法化しようとしました。

オランダでは、紋章官は終身の役職としては存在しません。私設紋章は法律で保護されておらず、国家の紋章及び貴族の紋章は高等貴族会議によって管理されます。イギリスのような紋章院は存在しませんが、王室の即位式の際には、高等貴族会議の一員である2名のキング・オブ・アームズと2名ないし4名のヘラルド・オブ・アームズが列席します。近年の即位式では、紋章官の衣装は時代とともに変化しており、式典での役割も変化しています。

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