宗教事業協会

宗教事業協会について

宗教事業協会（Istituto per le Opere di Religione、IOR）は、バチカン市国における資金管理と運営を行う重要な組織であり、一般には「バチカン銀行」や「神の銀行」として知られています。この機関は、ローマ教皇庁の国家財政の管理を直接担い、各国の民間投資銀行を通じて資金調達を行っていますが、バチカンが公開する国家予算にはこの協会の利益は反映されていません。

設立の背景

宗教事業協会は、1929年に締結されたラテラノ条約に基づいて設立されました。当初の資本は、当時のイタリア王国から支払われた教皇領の没収に関する補償金9億4000万ドルに由来しています。1942年にピオ12世の指導のもと、既存の「宗務委員会」から改組されて誕生しました。

しかし、第二次世界大戦の終結後には、ドイツの戦犯容疑者に資金を流用したとの指摘があり、ここから宗教事業協会に対する疑念が強まります。また、1999年にはグループ訴訟「Alperin v. Vatican Bank」が提起され、いまなおその影響が続いています。

ヨハネ・パウロ1世の改革と急死

1978年、ローマ教皇となったヨハネ・パウロ1世は、就任直後から宗教事業協会の不透明な財政に改革の必要性を感じ、主力のイタリア国立労働銀行の子会社であるアンブロシアーノ銀行との関係を見直す意向を示しました。

水面下で進行していたこの改革の一環として、汚職に関与していたバチカン内の高官の更迭を決定しましたが、わずか33日後の1978年9月、彼は突如として死去しました。彼の急死を巡っては多くの疑惑が持ち上がり、特に彼の改革に反対していた関係者の関与が囁かれるようになりました。

カルヴィ暗殺事件

ヨハネ・パウロ1世の死後、バチカンの改革は停滞し、特にマルチンクス大司教による汚職が続きました。1982年、アンブロシアーノ銀行のロベルト・カルヴィ頭取がマフィアや「ロッジP2」の関与が疑われる状況で暗殺される事件が発生しました。この暗殺は、当時のバチカンの内部事情に対する大きなスキャンダルを引き起こしました。

相次ぐ違法行為と問題

カルヴィの暗殺による混乱の中でも、宗教事業協会は汚職に関与し続け、1990年までのマルチンクス大司教の在任中に不正行為が相次ぎました。2009年と2010年には、マネーロンダリングに関する捜査が行われ、2300万ユーロの資産が押収される事態にもなりました。

バチリークス・スキャンダル

2012年、官僚的な問題とスキャンダルを受けて、エットレ・ゴッティ・テデスキが解任されました。また、2021年には元総裁のアンジェロ・カロイアが公金の横領とマネーロンダリングで禁錮刑を言い渡される歴史的な判決が下されました。バチカン市国の裁判所が金融関連犯罪で有罪判決を出すのは初めてのことで、信頼の回復が大きな課題となっています。

結論

宗教事業協会は、長い歴史の中で数多くのスキャンダルと汚職に見舞われながらも、依然としてバチカンの重要な財政機関として機能しています。今後の改革と透明性の確保が求められる中で、バチカン内の道徳的および運営に関する問題が続いています。

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