官営釜石鉄道1号形蒸気機関車

1号形：日本の近代化を支えた小さな巨人

1880年、日本で3番目の鉄道として開業した官営釜石鉄道。その路線を走った蒸気機関車に、便宜上「1号形」という名称が与えられました。この機関車は、英国製の0-4-0(B)型サドルタンク機関車で、全長5925mm、全高3124mmと、小柄ながらも力強い存在感を示していました。

最大の特徴はその軌間です。838mmという特殊な狭軌は、日本国内では非常に珍しいものでした。製造されたのは3両。シャープ・スチュアート社製の製造番号2793～2795で、整備重量は18t、固定軸距1753mm。単式2気筒の飽和式機関車でした。サドルタンクは煙室前端から外火室前端まで広がり、その4分の3が水槽、残りは工具箱となっていました。外火室はボイラーより高く、運転台前部には角型の炭庫が設けられていました。台枠は外側式で、動輪は外からほとんど見えませんでした。

しかし、釜石鉄道は当初計画のずさんさから1882年には採鉱と製鉄所の閉鎖、そして鉄道の廃止という運命を辿ります。設備は売却され、1号形もその運命を免れませんでした。なお、廃止直前には、雪のため速度超過で事故を起こし、機関車も損傷しています。

各地の活躍と改造

3両の1号形はそれぞれ異なる道を歩みました。製造番号2793は三池炭鉱に移り、1891年には軌間を1067mmに改造されました。この改造で運転台は拡張され、火室を覆う形となり、炭庫は後部に移動しました。日本の1067mm軌間の蒸気機関車では唯一の外側台枠式として、1946年まで活躍しました。

残りの2両、製造番号2794と2795は、藤田伝三郎らに払い下げられ、阪堺鉄道で活躍することになります。ここでは「和歌」と「芳野」と名付けられ、1885年の部分開業から1888年の全通まで貢献しました。運転台形状はやや異なっており、釜石時代に改造されたものと考えられます。1897年の阪堺鉄道の改軌（1067mm）に伴い、南海鉄道に譲渡され、南海本線の一部で運行されました。この際に、三池鉄道のものとは異なり内側台枠式に改造され、動輪径も変更されました。南海では4形となり、「和歌」(15)と「芳野」(14)として運用されました。

「芳野」は1917年に博多湾鉄道に譲渡され、1938年に廃車されました。「和歌」は1909年に京阪電気鉄道に貸与され、淀や伏見で使用された後、1916年に鞍手軽便鉄道に譲渡され、1951年に廃車となりました。鞍手軽便鉄道時代に水槽を増量した形跡があり、サドルタンクの後部4分の1を水槽に転用したようです。

主要諸元（釜石鉄道、阪堺鉄道時代）

全長：5,925mm
全高：3,124mm
軌間：838mm
車軸配置：0-4-0(B)
動輪直径：762mm
弁装置：スチーブンソン式
シリンダー（直径×行程）：305mm×457mm
ボイラー圧力：9.8kg/cm2
火格子面積：0.56m2
全伝熱面積：39.5m2
機関車運転整備重量：18t
機関車動輪上重量（運転整備時）：18t
機関車動輪軸重（各軸均等）：9t
水タンク容量：1.8m3
燃料積載量：0.48t
ブレーキ方式：手ブレーキ、反圧ブレーキ

1号形は、様々な鉄道会社で活躍し、その生涯は日本の近代化の歴史と深く関わっています。小さな車体ながら、大きな役割を果たしたこの機関車の物語は、日本の鉄道史において重要な一頁を刻んでいるのです。

参考文献

臼井重信「機関車の系譜図 1」1972年、交友社刊
金田茂裕「日本最初の機関車群」1990年、機関車史研究会刊
* 沖田祐作「三訂版 機関車表」1996年、滄茫会刊

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