宝井琴調

宝井 琴調

「宝井 琴調」（たからい きんちょう）は、講談師の世界で代々受け継がれる由緒ある名跡です。表記には「寶井 琴調」の字が用いられることもあります。現在この名を継承しているのは四代目であり、本項ではこの四代目宝井琴調について詳しく記述します。

歴代の宝井琴調には、後に二代目東流斎馬琴を襲名した初代、宝井派に入ったものの具体的な師が明らかではない二代目、詳細不明の代外、そして後に六代目宝井馬琴となった三代目がいます。

当代、四代目宝井琴調は1955年5月28日生まれの講談師です。本名を古内 良治といいます。講談協会と落語協会の両方に所属しており、それぞれで要職を務めています。講談協会では会長として協会の運営を牽引し、落語協会では理事として活躍しています。高座で使用される出囃子には、「陣立」または「片しゃぎり」が用いられています。

芸歴

四代目の芸の道は、1974年2月に五代目宝井馬琴に入門したことから始まりました。同年5月には前座名として「琴僚」を名乗ります。

真打昇進は1985年4月で、この時「琴童」と改名しました。同年10月には師である五代目宝井馬琴が死去したため、宝井琴鶴門下へ移ります。そして、1987年1月に四代目宝井琴調を襲名し、現在の名跡を継承しました。2023年4月には講談協会の会長に就任しています。

主な活動

宝井琴調は、伝統的な講談の枠を超えた多様な活動で知られています。

自転車出前講談

1989年から1998年にかけて、「自転車出前講談」と銘打ち、自転車で北海道各地を巡りながら講談を披露するというユニークな活動を行いました。これは、地域に講談を届けるための精力的な取り組みとして注目されました。

暮れの鈴本 琴調六夜

2011年以降、毎年年末（原則として12月21日から27日の間、26日を除く）に、東京・上野の鈴本演芸場にて「暮れの鈴本 琴調六夜」と題した連続公演の主任を務めています。通常、落語家が主任を務める落語定席において、講談師が主任を務めることは極めて異例であり、その人気と実力を示すものです。公演では年ごとに異なるテーマを設け、様々な物語を披露しています。例えば、「赤穂義士」、「戦国武将伝」、「侠客伝」といった古典的な題材から、師である五代目宝井馬琴を追慕する会、あるいは世相や心情を反映させたかのような詩的なサブタイトルが付けられた年もあり、その演目の幅広さが伺えます。

封印切りの会

2012年からは、「封印切りの会」を定期的に開催し、新たな演目（ネタ）を初めて披露する「ネタおろし」の場としています。2012年5月の初回から2017年6月にかけては、全12段から成る「天保六花撰」をこの会で完結させるなど、古典の大ネタにも精力的に取り組んでいます。

現代小説の講談化

浅田次郎氏、宮部みゆき氏、重松清氏といった現代を代表する人気作家たちの許諾を得て、彼らの現代小説を講談として翻案し、演じることでも知られています。これは、講談という伝統芸能に新たな息吹を吹き込む試みとして注目されています。

演目

多岐にわたる演目を持ちますが、特に「赤穂義士銘々伝」や「大岡政談」、「怪談」、「侠客伝」、「力士伝」などが得意とされています。

音源・著作・その他の活動

講談の音源は、CDや各種デジタルミュージック配信サービスで購入・視聴が可能です。また、「封印切りの会」の席亭のYouTubeチャンネルでも一部音源が公開されています。

著作としては、子供向けの「講談えほん」を出版しており、伝統的な物語を分かりやすく伝える活動も行っています。その他、国立劇場や歌舞伎座での舞台出演、映画への出演、DVDのナレーション、講談に関する書籍の監修なども手掛けています。

受賞歴

長年の講談界での功績が認められ、2024年には国立名人会での「名月若松城」の演技に対して、第74回芸術選奨大衆芸能部門大臣賞を受賞しています。

講談協会会長、落語協会理事という要職を務めながら、伝統の継承と新たな試みを積極的に行い、講談の普及・発展に貢献している当代宝井琴調は、現代講談界を代表する一人です。

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