実物貨幣

実物貨幣とは

実物貨幣とは、その素材そのものが商品としての価値を持つ貨幣のことを指します。商品貨幣とも呼ばれ、反対に素材自体にほとんど価値を持たない貨幣は名目貨幣と呼ばれます。この貨幣は、各社会の歴史や環境によって異なり、その社会で重要な生産物や貴重な外来品が用いられてきました。

実物貨幣の歴史

最古の貨幣としては、穀物、家畜、布類などが挙げられます。これらは、その社会において生活に不可欠なものであり、価値が認められていました。石や貝なども自然貨幣として用いられましたが、後に貴金属（金、銀、銅）が主流となります。貴金属は、価値が安定しており、加工も容易で、分割もしやすいため、貨幣としての条件を満たしていました。これらの貨幣を総称して実物貨幣と呼びます。

実物貨幣の条件としては、以下の点が挙げられます。

素材の品質上の同一性: 均質な素材であることが求められます。
質的な分割・結合の容易さ: 必要に応じて分割したり、組み合わせたりできる必要があります。
比較的少量でも大きな交換価値を持つこと: 少量で大きな価値を持つことで、持ち運びが便利になります。
耐久性の高さ: 長く使えることが重要です。
運搬の容易さ: 持ち運びやすいことが望ましいです。

これらの条件を最も満たしていたのが、貴金属で作られた一定の小塊でした。

商品貨幣論

商品貨幣論とは、貨幣の価値が、その素材である商品の価値に由来すると考える学説です。これは、社会的分業と私的所有を基礎とする商品経済社会において、生産物はすべて商品として扱われ、その価値は交換比率によって定められるという考えに基づいています。実物貨幣として用いられた素材も、元々は商品経済社会に存在する数多くの商品の中から、諸条件によって選び出されたものです。

商品貨幣論では、貨幣は本来実物貨幣（商品貨幣）である必要があり、名目貨幣は本来の貨幣の象徴や代替物に過ぎないとされています。商品貨幣の多様性については、パウル・アインチッヒの著作『原始貨幣』で詳しく論じられています。

実物貨幣の参考文献

実物貨幣についてさらに詳しく知りたい方は、以下の文献を参考にしてください。

黒田明伸『貨幣システムの世界史』（増補新版）岩波書店、2014年。
浜野俊一郎「実物貨幣・信用貨幣」（『社会科学大事典 8』鹿島研究所出版会、1975年）
湯浅赳男『文明の「血液」』（増補新版）新評論、1998年。

関連項目

貨幣学
貨幣史

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