宣徳王

宣徳王（せんとくおう）：新羅下代の幕開けと王位簒奪の時代

宣徳王（生年不詳 - 785年）は、新羅第37代の王であり、恵恭王を討って王位に就いたことで、新羅の歴史に新たな局面をもたらしました。彼の即位は、その後の新羅で王位簒奪が繰り返される「下代」と呼ばれる時代の幕開けとなりました。

生い立ちと即位

宣徳王の本名は金良相。奈勿尼師今の十世孫にあたる傍系の出身であり、元々王位を継承する立場ではありませんでした。父は海干の金孝芳、母は聖徳王の娘である四炤夫人という家系です。

恵恭王の時代、良相は伊飡として上大等に任命されました。当時の新羅は、王権強化を目指す律令派と、貴族連合体制を維持しようとする貴族派の対立が激化していました。良相は貴族連合派の代表として、王に対して政治批判の上書を行うなど、王権を牽制する役割を担いました。

780年、貴族による反乱が勃発。良相は金敬信（後の元聖王）と共に鎮圧に乗り出しますが、最終的に恵恭王を殺害し、自ら王位に就くという決断を下します。この過程は、新羅社会における王権の衰退と貴族勢力の台頭を象徴する出来事でした。

治世と政策

即位後、宣徳王は金敬信を上大等に任命し、唐への朝貢を再開するなど、外交関係の安定に努めました。また、渤海の勢力拡大に対抗するため、北方地域の守備を強化し、浿江以南の住民を安撫したり、漢山州の住民を浿江鎮へ移住させたりするなどの政策を実施しました。

祭祀においては、自らの父を開聖大王として追封し、五廟を保ち、社稷の壇を築くなど、王系の正当性を示すことに腐心しました。

しかし、在位わずか6年目の785年に病死。唐から冊封を受けた直後の死であり、その治世は新羅の混乱を収めるには至りませんでした。

評価と影響

宣徳王の即位は、武烈王直系の王統が途絶え、傍系へと移行したことを意味します。上大等という貴族の代表が王位を簒奪したことは、新羅社会に大きな衝撃を与え、以降、王位簒奪が繰り返される「下代」と呼ばれる時代の到来を告げました。

宣徳王自身は短期間の在位であったため、政治的混乱を収めることはできませんでしたが、彼の即位は新羅社会の構造的な変化を促し、後の元聖王の治世へと繋がっていきます。

また、宣徳王が奈勿尼師今の十世孫であることを強調したことは、新羅の金氏王統の始祖伝承に影響を与え、奈勿尼師今を王統の始祖とする新たな伝承を生み出す一因となった可能性も指摘されています。

宣徳王の治世は短く、その評価は分かれるところですが、新羅史における彼の存在は、王権の衰退と貴族勢力の台頭、そして王位簒奪の時代の幕開けを象徴するものとして、重要な意味を持っています。

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