宮原誠一

宮原誠一：自己教育を追求した教育学者

宮原誠一（1909年8月26日 - 1978年9月26日）は、社会教育学を専門とした日本の教育学者であり、東京大学名誉教授を務めました。彼の教育学の根幹には、自己教育としての社会教育、そして共同学習と相互教育の連動という思想がありました。これらの思想は、戦前の著書『形成と教育』（1940年）や、戦後の『教育の本質』（1949年）、『社会教育の本質』（1949年）で詳細に論じられています。

生涯と業績

東京で生まれた宮原は、旧制水戸高校を経て東京帝国大学文学部教育学科を卒業しました。その後、新興教育研究所や教育科学研究会での活動を経て、1940年に法政大学講師に就任。戦後は文部省社会教育局での勤務を経て、1953年に東京大学教育学部教授となりました。1957年には『教育学事典』の編纂で毎日出版文化賞を受賞しています。1971年に東京大学を定年退官するまで、教育学部の草創期を支え、教育学の勝田守一、教育行政学の宗像誠也と共に「3M（スリー・エム）」と称されました。

宮原は戦前、教育科学運動を推進し、戦後の教科研再建運動にも尽力しました。また、教育の社会的規定性を重視し、「教育的価値」の存在を巡って勝田守一と論争を繰り広げました（勝田・宮原論争）。さらに、青年教育論の分野でも先駆的な業績を残しています。

戦争責任隠蔽問題

しかし、宮原には負の側面も存在します。戦前・戦中期に活躍した教育学者の中には、戦時中の戦争協力を煽った論文や文書を隠蔽する者がいましたが、宮原もその一人であると批判されています。国土社から刊行された『宮原誠一教育論集』（全7巻）では、戦前の論考の一部が宮原自身によって削除されています。また、略歴や業績においても、当時の戦争協力を煽った論文や文書が省略されていると指摘されています。

長浜功元東京学芸大学教授は、宮原の過去の行いを厳しく批判しており、また、『進歩的文化人　学者先生戦前戦後言質集』では、宮原が戦時中は「戦争は人類進歩の原動力」と主張していたにも関わらず、戦後は平和主義者に転向したと暴露されています。これらの議論に関して、山田正行は「記憶の風化と歴史認識に関する心理歴史的研究―抵抗と転向の転倒―」の中で、宮原の問題点を検討しています。

著作

宮原は、多くの著作を世に残しています。主な著書には、

『文化政策論稿』（1943年）
『教育と社会』（1949年）
『教師論』（1950年）
『北の子南の子』（1954年）
『家庭と学校』（1954年）
『教育学ノート』（1956年）
『青年期教育の創造』（1962年）
『教育史』（1963年）
『青年期の教育』（1966年）
『PTA入門』（1967年）
『宮原誠一教育論集』（全7巻、1976-1977年）
『夕陽』（1980年）

などがあります。また、多くの共編著や翻訳も手がけています。

宮原誠一は、教育学者として多大な功績を残した一方で、過去の戦争協力に関する責任を曖昧にしたという批判も存在する、複雑な人物であると言えるでしょう。

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