宮簀媛

宮簀媛（みやすひめ）

宮簀媛は、生没年不詳の古墳時代の豪族・尾張国造の女性です。日本武尊の最後の配偶者であり、熱田神宮の創祀に関わる重要な人物として伝えられています。しかし、彼女は記紀の系譜には名前がなく、物語の中でその存在が語られるのみです。

概要

『日本書紀』では宮簀媛、『古事記』では美夜受比売と記されています。

『日本書紀』によると、日本武尊は東征からの帰途に尾張に立ち寄り、尾張氏の娘である宮簀媛と結婚し滞在しました。その後、近江の伊吹山に荒ぶる神がいると聞き、草薙剣を媛の家に残し、素手で退治に向かいます。しかし、山道で神が大蛇に化けて現れたにもかかわらず、尊はこれを無視しました。怒った神は氷を降らせて尊を迷わせ、尊は失神してしまいます。山下の泉で正気を取り戻したものの、病に侵された尊は、尾張の媛の家には寄らず、そのまま伊勢へ向かったと記されています。

『古事記』にも同様の話が語られていますが、倭建命（日本武尊）は比売の月の障りを押して関係を持ったとされています。また、この結婚は東国へ向かう途中に尾張を通った際に約束がされていたとされています。

『尾張国風土記』逸文の熱田社由来や『熱田大神宮縁起』によると、日本武尊が尾張連らの遠祖である宮酢媛命を娶り宿泊した際、剣が神々しく光り輝いたため、宮酢媛命にその剣を奉斎することを命じ、そこで建てられたのが熱田神宮であるとされています。

伝承

尾張国の地誌『尾張名所図会』には、ヤマトタケルが東征の際に尾張の「布曝女町（及び松姤社）」（または曾福女町）を通りかかった際、美しい女性（宮簀媛）が1人で川辺で布を晒していたと記されています。そこでヤマトタケルは初めて宮簀媛と出会い、声をかけて氷上の里への道を聞いたものの、宮簀媛は耳が聞こえないふりをしたとされています。『名古屋市史』では「布曝女」の由来を宮簀媛が裁縫をした場所としており、江戸時代の随筆では宮簀媛が布をさらした場所としています。また、尾張藩が完成させた地誌『尾張志』では、ヤマトタケルの東征中、宮簀媛は門を閉ざし、誰の声も聞かずにヤマトタケルの帰りを祈願したとされています。

奈良県天理市にある出雲建雄神社の縁起には、祭神（草薙剣の荒魂）が「吾は尾張氏の女（巫女）が祭る神である」と託宣しており、これは宮簀媛のことを指していると考えられています。

福岡県鞍手郡鞍手町中山にある八剣神社は、ヤマトタケルが熊襲討伐の西征の際に訪れた場所であり、この地でもヤマトタケルの妃である宮簀媛が祀られています。

系譜

宮簀媛は尾張国造の乎止与命（オトヨ）の娘です。父の乎止与命は、天火明命（アメノホアカリ）または綿積豊玉彦命（ワタツミトヨタマヒコ）の子孫であり、建稲種命（タケイナダネノミコト）の妹にあたります。

脚注

宮簀媛は、日本武尊の物語において重要な役割を果たしていますが、その実像は謎に包まれています。
熱田神宮の創建に深く関わる人物として、現在でも多くの人々に敬われています。

関連項目

熱田神宮
天叢雲剣
氷上姉子神社
断夫山古墳
* 尾張戸神社

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