天火明命

天火明命（あめのほあかりのみこと）は、日本神話に登場する神で、『新撰姓氏録』では「神別」の「天孫」に分類されています。この神は、太陽光や熱を神格化した存在であり、農業神としても信仰されています。

呼び名

天火明命は、その名が示す通り、様々な別名を持っています。主な別名は以下の通りです。

天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊（あまてるくにてるひこあめのほあかりくしたまにぎはやひのみこと）：『先代旧事本紀』に記述。
天照国照彦天火明櫛玉饒速日命（あまてるくにてるひこあめのほあかりくしたまにぎはやひのみこと）：真清田神社由緒記に記述。
天照国照彦天火明尊（あまてるくにてるひこあめのほあかりのみこと）
天照国照彦火明命（あまてるくにてるひこほあかりのみこと）：『日本書紀』および真清田神社由緒記に記述。
天火明命（あめのほあかりのみこと）：『古事記』および真清田神社由緒記に記述。
彦火明命
火明命（ほあかりのみこと）：『日本書紀』に記述。
膽杵磯丹杵穂命（いきしにほのみこと）
天照御魂神（あまてるみたまのかみ）：『神社志料』に記述。

これらの別名から、天火明命が多様な側面を持つ神であることがわかります。

系譜

天火明命の系譜については、『古事記』と『日本書紀』で記述が異なり、複数の説が存在します。

『古事記』および『日本書紀』の第六・第八の一書：天忍穂耳命と高木神の娘、万幡豊秋津師比売命の子であり、兄が天火明命、弟が邇邇芸命とされています。
『日本書紀』の本文および第二・第三・第五・第七の一書：邇邇芸命の子とされています。
『先代旧事本紀』：穂積臣や物部連の祖である饒速日命の別名であり、同一神とされています。しかし、世代関係や活動地域から疑問視する説もあります。
『播磨国風土記』：大汝命と弩都比売の子とされています。

このように、天火明命の系譜は複雑であり、どの説を採用するかによって解釈が異なります。

後裔氏族

『新撰姓氏録』では、天津彦根命、天穂日命、天道根命などの子孫と合わせて、天火明命の子孫を「天孫」と称しています。天孫系は高天原から尾張国や丹波国に移り、尾張氏、津守氏、海部氏、丹波氏など、多くの氏族の祖神とされています。『海部氏系図』にも始祖としてその名が記されています。

また、穂積氏や物部氏の祖である饒速日命と同一ともいわれますが、この説を否定し、両者を結びつけるのは創作であるとする研究もあります。『姓氏録』では、天火明命の子孫は「天孫」、饒速日命の子孫は「天神」と区別されています。

襷多治比氏

『新撰姓氏録』によると、火明命の11世孫である殿諸足尼命の末裔、兄男庶は女のような心の持ち主であったため、襷を賜り御膳部に任命され、襷多治比氏の祖となりました。一方、弟男庶は勇健な心の持ち主で、その力は一騎当千であったため、靱を賜い、四十千健彦を名乗り、靱負を姓としたとされています。

字義

名前の「天照国照」や「火明」から、太陽光や熱を神格化した存在であることがわかります。『古事記伝』では「ホアカリ」を「穂赤熟」とし、稲穂が熟して赤らむ意味としており、天皇に繋がる他の神と同様、稲に関係のある名前でもあり、太陽神・農業神として信仰されています。このようなことから、天穂日命の系譜、つまり天津神系の出雲神を源流とする説もあります。

「天照」の名を持ちますが、「天照大神」とは別の神です。元伊勢の籠神社では、主祭神を「天照国照彦火明命」、相殿神に「天照大神」として、それぞれ別の神として祀られています。

主な神社

天火明命を祀る主な神社は以下の通りです。

籠神社（京都府宮津市）：彦火明命として祀られ、その子孫とされる海部氏が宮司を世襲しています。
真清田神社（愛知県一宮市）
他田坐天照御魂神社（奈良県桜井市）：『特選神名牒』に記述。
住吉大社（大阪市住吉区）：住吉三神を祀っていますが、創建者の田蓑宿禰は天忍人命を始祖とする尾張氏の一族であり、その子孫が住吉大社の歴代宮司家としての津守氏です。
尾張戸神社（愛知県名古屋市守山区・瀬戸市）：東谷山という霊山の山頂に鎮座し、日本武尊の妃である宮簀媛命が尾張氏の始祖を祀るために創建したとされています。
七夕神社（福岡県小郡市）：母神、祖父神とともに祭られています。
その他、全国の天照御魂神社は天火明命を祀るところが多いです。

関連項目

日本の神の一覧
ニギハヤヒ

天火明命は、古代日本の信仰において重要な位置を占める神であり、その多面的な性格が、多くの氏族や神社で崇敬される理由となっています。

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