家長

家長（かちょう）とは

家長とは、一家の家督を継承し、家族を統括して祭祀を主宰する者を指します。当主という言葉と同じ意味で用いられます。

家長の役割と権限

家長は、配偶者や直系卑属に対して夫権や親権を行使するだけでなく、他の親族に対しても道徳的な影響力を持っていました。親族を保護する義務を負う一方で、家長の意に反する者を義絶（勘当）する権限も有していました。また、家の伝統や祭祀に関する権限を握る存在でもありました。

家産の管理や家業の経営も家長の役割でしたが、家産や家業は家長の私有物ではなく、「家」に属するものとされていました。

武家における家長

鎌倉時代の武家社会においては、家長の地位は必ずしも長子によって定められるものではなく、個人の器量が重視される傾向がありました。家督は分割できませんでしたが、所領などの家産は分割することが可能でした。

しかし、鎌倉時代後期以降になると、家産も家督と同様に長子単独相続されるようになり、家長の権限も長子あるいは嫡子本位で決定されるようになりました。系譜、祭具、墳墓などの継承権も長子が有するようになります。

家父長制と家母長制

父親が家長となる制度を家父長制、母親が家長となる制度を家母長制といいます。

明治民法における家長（戸主）

明治時代以降の家長は、武家の家長制度を強化する形で、民法の「戸主」として法制化されました。1898年（明治31年）7月16日から施行された民法では、家長は強大な戸主権を有し、一家の内部で絶対的な権力を持っていました。家制度・戸主は、第二次世界大戦後の民法改正によって1947年（昭和22年）5月2日まで続きました。

現代の制度との違い

1947年（昭和22年）5月3日以降の現行戸籍における「筆頭者」や、住民基本台帳（住民票）における「世帯主」は、家長（戸主）とは全く異なる制度です。筆頭者や世帯主は、戸籍や住民票の管理上の便宜のために定められるものであり、かつての家長のような権限は一切持ちません。

参考文献
芳賀登「家長」（『世界歴史大事典 4』教育出版センター、1991年）
中野卓「家長」（『日本大百科全書 5』小学館、1991年）

関連項目
家督
家財
家制度
氏長者
* 御曹司

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