富士忠時

富士忠時の生涯と家督争い

富士忠時（ふじ ただとき）は、室町時代において富士山本宮浅間大社の大宮司を務めた人物で、その詳細な生没年は不明である。彼は、富士氏の当主であり、様々な歴史的な事件に関与している。

享徳の乱とその後の任官

忠時は、享徳の乱の際に室町幕府の側についたことで知られ、幕府勢力である扇谷上杉氏の上杉持朝の進軍に呼応する形で行動した。特に享徳4年（1455年）閏4月15日には、持朝からの戦功によって功績を認められたエピソードが存在する。彼は、その後1362年11月には能登守に任命されており、この任命は足利義政の推薦を受けて後花園天皇によって承認されたとされる。また、有力な説として、今川氏の意向や堀越公方である足利政知への協力を意図した義政の政策が背景にあったと考えられている。

その後、文明10年（1478年）には、村山口登山道が位置する現在の静岡県富士宮市村山に大日如来坐像が伝えられることとなる。この像には「大宮司前能登守忠時 同子息親時」という銘が刻まれており、忠時がこの時点で能登守を辞していたことが伺える。

富士家の家督争い

忠時の生涯において、大きな影響を及ぼしたのが富士家内での家督争いであった。この争いは、彼とその父親である富士祐本との間で起こり、特に寛正年間から文正年間（1460年代）にかけて著しく激化した。この事態は、『親元日記』に記録されており、寛正6年（1465年）7月朔日においても記載されている。家督を巡る争いは、祐本が忠時ではなく、孫である宮若丸（後の富士親時）に家督の相続を望んだことに端を発している。

忠時はこのような父の意向に反発し、家督継承を巡る対立が生じた。この争いは、祐本から幕府への注進状にも反映され、ことの発端に対する幕府の関与が伺える。将軍足利義政もこの情報を受けて、祐本の主張を認める判断を下した。しかし、忠時は堀越公方足利政知に働きかけ、結局赦免を受けることとなった。

この騒動はその後も続き、義政は文正元年（1466年）10月11日に政知宛の御内書の中で、祐本の行動を批判し、宮若丸に対して富士大宮司職を移行するように指示した。この一連の騒動を受けて、富士家の家督問題は一旦の解決を見たとされる。

この家督争いの存在は、当時の今川義忠が幕府の関東出陣命令に対応できなかった要因の一つとして指摘されていることも興味深い。今川義忠が富士家内の争いに密接に関与していたことが、地域の政治的な状況にも影響を与えた可能性を示唆している。

参考文献

• - 黒田基樹「享徳の乱における今川氏」『論集 戦国大名今川氏』2020年、61-82頁。
• - 大石泰史「十五世紀後半の大宮司富士家」『戦国史研究』第60号、2010年、9-10頁。
• - 浅間神社社務所『浅間神社の歴史』古今書院〈富士の研究〉、1929年。
• - 富士宮市教育委員会『村山浅間神社調査報告書』2005年。

もう一度検索