足利政知

足利政知：動乱の時代を生きた初代堀越公方

足利政知（あしかが まさとも）は、室町時代後期の武将で、初代堀越公方として知られています。室町幕府の第6代将軍・足利義教の四男として生まれ、第7代将軍・足利義勝の異母弟、第8代将軍・足利義政と足利義視の異母兄にあたります。また、第11代将軍・足利義澄の父であり、以後の将軍は政知の家系から続いています。

関東下向と堀越公方

足利成氏が享徳の乱を起こし、鎌倉から古河へ拠点を移して古河公方と称すると、政知は幕府公認の鎌倉公方として討伐のために派遣されました。しかし、関東の混乱と幕府の権力衰退、さらに上杉氏の内紛などにより鎌倉に入ることができず、伊豆の堀越に留まることになります。このため、「堀越公方」と呼ばれるようになりました。

生涯

幼少期から関東下向まで

永享7年（1435年）7月12日、政知は足利義教の四男として生まれました。幼少期から僧侶として育てられ、清久と名乗って天龍寺香厳院の院主を務めていました。長禄元年（1457年）7月、幕府は享徳の乱の状況を打開するため、清久を正式な鎌倉公方として決定します。これは、幕府と対立していた古河公方・足利成氏に対抗するため、上杉氏が幕府に新たな鎌倉公方の派遣を要請したことによるものでした。

同年12月19日、清久は義政の命で還俗し、政知と改名しました。12月24日には京都を出立し、近江園城寺に入ります。政知がなかなか関東に下向しなかったのは、下向の時期が整っていなかったためと考えられています。

長禄2年（1458年）5月25日、政知は幕府から「天子御旗」を授けられ、関東へ下向します。この際、関東の御料所や新闕所の処分権、寺社領の安堵権、兵糧料所の管理権なども認められました。また、布施為基や朝日教貞らを奉行人に、渋川義鏡や上杉教朝らを補佐役として連れて下向しました。しかし、成氏の勢力が強大であったため、鎌倉に入ることができず、伊豆に留まることになりました。

堀越公方としての活動

政知は伊豆の政治的中心地であった国清寺に入り、後に堀越御所を構えたため、「堀越公方」と呼ばれるようになります。幕府は政知の派遣と並行して、関東周辺の大名に出陣を命じ、成氏討伐計画を進めましたが、斯波義敏が命令に従わず、内紛鎮圧のため越前に向かったことで頓挫しました。また、太田庄の戦いで幕府軍が敗北したことで、政知は軍事力を持たないまま伊豆に留め置かれることになりました。

長禄4年（1460年）1月1日、駿河守護・今川範忠が帰国すると、政知の陣所である国清寺が成氏方に焼き討ちされる事態となり、5月以降に堀越へ本拠を移します。政知は幕府と対応を協議し、斯波氏の家臣である朝倉孝景らが派遣され軍事力の目処は立ちましたが、幕府は政知が関東の幕府方勢力と結びつき、自立することを恐れ、軍事指揮権を掌握しました。このため、政知には実権がありませんでした。

寛正2年（1461年）、幕府の命令で斯波氏の家督が交代し、渋川義鏡の子・義廉が当主となります。これは、幕府が堀越府の軍事力を強化するための措置であり、義鏡が斯波氏当主の父という関係を利用して、斯波軍を堀越府の直轄に置こうとするものでした。しかし、寛正2年から政知の家臣が勝手に鎌倉や相模国人の所領に入部しようとしたり、扇谷上杉家家宰の太田道真が隠居、上杉教朝が自殺するなど、関東幕府方が不穏な動きを見せ始めます。

寛正3年（1462年）3月、政知は義鏡の讒言を信じ、上杉持朝の反逆を義政に通報したため、上杉氏内部で政知擁立に異論が出され、政知は持朝の相模守護職を停止させましたが、12月に義政が持朝の保護を命令、持朝の重臣らが隠居する騒ぎに発展しました。これにより、政知は自ら鎌倉入りの可能性を閉ざし、義鏡が失脚したため、斯波軍の編成も失敗に終わりました。

その後、上杉政憲が新たな関東執事として活動し、政知も政憲と共に上杉氏など関東諸侯との関係修復に努めました。文明3年（1471年）には、成氏を撃破し、古河城を攻め落としますが、翌年には成氏が復帰し、振り出しに戻ります。文明8年（1476年）には、今川氏の内紛に介入し、調停を行いました。この最中に長尾景春の乱が起こり、両上杉氏は和睦を考えるようになり、文明10年（1478年）1月に成氏と幕府との和睦が成立しました。

文明11年（1479年）、義政は今川氏の当主として龍王丸を認めました。政知は義政の判断を認めましたが、その背景には、両上杉氏が成氏と和睦したことで、政知が範満への支援を停止した可能性や、堀越公方の勢力が駿河に及んでいた可能性などが考えられます。また、この頃までに政知が細川政元と連携するようになったことも、義政の判断を支持する理由になったと考えられます。文明14年11月27日、幕府と成氏との間に都鄙和睦が成立し、享徳の乱は終結しました。政知は、20年以上にわたり成氏と抗争を繰り広げましたが、満足な軍事力を得られず、関東一円を制することはできませんでした。

晩年と死後

和睦成立後、政知は細川政元との連携により、次男の清晃を次期将軍にすべく、上洛させました。この頃、政知は長男の茶々丸を廃嫡し、三男の潤童子を後継者に定め、上杉政憲を自害させました。延徳元年（1489年）3月、将軍・義尚が死去すると、政知は清晃を新将軍に擁立しようとしましたが、新将軍となったのは義視の嫡子・義材でした。延徳3年（1491年）1月、義視が死去すると、政知と細川政元は清晃の擁立に動き始めました。

4月3日、政知は病により伊豆で死去しました。享年57歳。政知の死後、茶々丸が潤童子と円満院を殺害し、新たな堀越公方となりましたが、伊勢盛時に討伐され、堀越公方は実質一代で終わりました。しかし、その後の室町幕府の将軍は（義稙の再任を除き）全て義澄の子孫が就任することになります。

官歴

• - 長禄元年（1457年）12月19日、堀越公方就任。従五位下、左馬頭に任官。
• - 文明2年（1470年）11月26日、従四位下に昇叙。
• - 文明7年（1475年）9月9日、従三位に昇叙。左兵衛督に任官。
• - 文明17年（1485年）、左兵衛督を辞任。

墓所

静岡県三島市の宝鏡院内にある足利義詮塚の傍らにあります。

足利政知は、室町時代後期における激動の時代を生き、その生涯は、関東の動乱と幕府の衰退、そして自身の野望と挫折が交錯する複雑なものでした。堀越公方としての活動は、その後の室町幕府の歴史に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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