上杉持朝

上杉持朝（うえすぎ もちとも）は、室町時代の中期に活躍した武将であり、相模国の守護を兼任した守護大名です。彼は関東管領家の一族である扇谷（おうぎがやつ）上杉家の当主として、激動の時代における関東地方の政治と軍事に大きな影響を与えました。

持朝は応永23年（1416年）、上杉氏定（うじさだ）の次男として生を受けましたが、その幼少期は波乱に満ちていました。同年発生した上杉禅秀（ぜんしゅう）の乱において父・氏定が戦死し、後を継いだ兄・持定（もちさだ）も若くして亡くなったため、持朝は幼くして家督を継承することになりました。家督相続後は、血縁にあたる小山田（おやまだ）上杉家の上杉定頼（さだより）の補佐を受けながら家を支えました。彼の名前「持朝」は、扇谷上杉家で代々用いられる通字「定」ではなく、祖先の上杉朝定（ともさだ）から取った「朝」の字を用いています。これは、兄・持定が既に「持定」と名乗っていたため、当時の鎌倉公方（かまくらくぼう）である足利持氏（あしかが もちうじ）から与えられた「持」の字に組み合わせる別の字が必要だったためと考えられています。

史料上に持朝の名が初めて確認されるのは、永享5年（1433年）のことです。扇谷上杉家の所領であった武蔵国（むさしのくに）久良岐郡（くらきぐん）にある徳恩寺（とくおんじ）本地堂の棟札（むなふだ）に、「藤原朝臣持朝」と記されており、この時、彼は元服から間もない17歳でした。その後、持朝は武将としての才能を発揮し始めます。永享11年（1439年）、鎌倉公方・足利持氏と関東管領（かんとうかんれい）・上杉憲実（のりざね）の間で勃発した永享の乱（えいきょうのらん）では、持朝は憲実に従って持氏を討伐する戦いに参加し、功績を挙げました。翌永享12年（1440年）に発生した結城合戦（ゆうきかっせん）でも、幕府軍の副将という重要な役目を務め、その武勲によって評価を高めました。

永享・結城の合戦が一段落した後、関東管領・憲実は隠退の意思を表明し、弟の清方（きよかた）を後継者に指名しました。しかし、幕府は清方の統率力に不安を感じていたため、憲実の復帰を促す一方で、清方の補佐役として持朝の協力を強く期待しました。この時期、持朝は朝廷から修理大夫（しゅりだいぶ）に任ぜられ、さらに結城合戦後、遅くとも文安4年（1447年）までには相模国の守護にも任命されています。やがて清方が急逝し、憲実の子・憲忠（のりただ）が新たな関東管領に就任すると、持朝は自身の娘を憲忠に嫁がせることで姻戚関係を結び、関東における有力な実力者としての地位を確固たるものにしました。

文安6年（1449年）、幕府の方針転換により、かつて滅ぼされた足利持氏の子である足利成氏（しげうじ）が鎌倉公方に復帰します。持朝は、かつて持氏討伐に加わった自身の立場から、成氏との関係を考慮し、家督を嫡男の顕房（あきふさ）に譲り、自身は出家して道朝（どうちょう）と号しました。しかし、彼の隠居生活は長くは続きませんでした。享徳3年（1454年）、鎌倉公方・成氏によって関東管領・上杉憲忠が暗殺されるという衝撃的な事件が発生し、これを契機に「享徳の乱（きょうとくのらん）」と呼ばれる長期にわたる戦乱が関東地方を覆います。

憲忠が討たれた後、持朝は憲忠の弟である房顕（ふさあき）を新たな関東管領として擁立し、自身はその後見人として乱における扇谷上杉家を実質的に率いることになります。しかし、康正元年（1455年）の分倍河原（ぶばいがわら）の戦いにおいて、家督を譲っていた嫡男・顕房が成氏軍との戦いで討死するという悲劇に見舞われます。この出来事の後、持朝は再び表舞台に復帰し、扇谷上杉家の当主として自ら軍を指揮するようになりました。成氏が鎌倉を離れて古河（こが）に本拠を移し、「古河公方（こがくぼう）」となると、持朝はこれに対抗するため、軍事力の強化に乗り出します。長禄元年（1457年）、彼は家宰（かさい）を務める太田道真（どうしん）・道灌（どうかん）父子に命じ、武蔵国内に戦略的な拠点となる河越城（かわごえじょう）、江戸城（えどじょう）、岩槻城（いわつきじょう）の三つの城を築城させました。持朝自身は河越城を自身の居城とし、武蔵国の支配を強化し、分国化を進めようとしました。

ところが、享徳の乱と並行して、持朝は新たな敵対関係に直面します。寛正元年（1462年）、将軍足利義政（よしまさ）が関東に派遣した堀越公方（ほりごえくぼう）足利政知（まさとも）と、兵粮料所（ひょうろうりょうしょ）の設置を巡る争いから対立が深まります。持朝は政知を支援する8代将軍・義政から厳しい詰問を受け、窮地に陥りました。この問題の解決のため、持朝に代わって責任を取る形で、扇谷上杉家の重臣であった大森氏頼（おおもり うじより）、三浦時高（みうら ときたか）、千葉実胤（ちば さねたね）の三人が隠退を余儀なくされました。この出来事により、持朝の勢力は大きく後退することとなります。

勢力を弱めた持朝は、堀越公方・政知との対立を打開するため、長年の宿敵であった古河公方・成氏との和睦を模索するようになります。しかし、その和議が実現する直前の応仁元年（1467年）9月6日、持朝は52歳でその生涯を終えました。

持朝の死後、扇谷上杉家の家督は、先に戦死した嫡男・顕房の遺児である孫の政真（まさざね）が継承しました。しかし、文明5年（1473年）、政真もまた武蔵五十子（いらこ）の戦いで戦死するという悲劇に見舞われます。これにより、顕房の弟であり持朝の三男にあたる上杉定正（さだまさ）が扇谷上杉家の当主となりました。また、持朝の次男・三浦高救（たかひさ）とその嫡男・義同（よしあつ）は、先述の重臣・三浦時高の養子となり、相模国の有力武士である相模三浦氏（さがみみうらし）を継承しています。上杉持朝は、扇谷上杉家を関東における有数の勢力へと引き上げた功績を持つ人物でしたが、同時に彼の積極的な活動は、関東地方を長期にわたる複雑な権力闘争と混乱の渦に巻き込む一因ともなったと言えるでしょう。

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