富士親時

富士親時について

富士親時（ふじ ちかとき）は、室町時代において富士山本宮浅間大社の大宮司を務めた著名な神職である。生没年は不詳だが、彼の活動は大変重要な歴史的意義を持っている。親時は富士氏の当主であり、父親の富士忠時からその役目を受け継いだ。

略歴

親時は、文正元年（1466年）に発行された足利義政の内書によって、大宮司職が父から自分に引き継がれたことが記されている。この時すでに親時は浅間大社の大宮司として厳格な信念に基づく祭祀を行っていた。

さらに、明応6年（1497年）には、浅間大社において物忌令を発布しており、このことから彼が大宮司としての権限を存分に行使していたことがわかる。物忌令は期間中に特定の行為を禁止するもので、神社への参拝や祭りの運営に深く関与していたことがうかがえる。

富士山への奉納

富士山本宮浅間大社の大宮司として活動していた親時は、富士山への仏像奉納を重視していた。文明10年（1478年）には、父である富士忠時と共に富士山の頂上にある大日堂に仏像を奉納した。この奉納は、親時が神道において仏教の教えをも吸収合併し、柔軟な考えを持っていたことを示している。

また、明応2年（1493年）5月16日には、特に有名な十一面観音像を富士山頂の東賽ノ河原に奉納したとされる。この奉納の際の銘文には「檀那富士大宮司親時」と記されており、富士親時の名前が歴史的な記録として残されている。

この十一面観音像については『甲斐国志』にその記録があり、巻三十五には「東ノ斉ノ河原ト云十一面観音ノ鉄像アリ」との記述が残されている。ここには、「檀那富士大宮司親時（中略）明応二年（癸丑）五月十六日」との具体的な日付も記録されており、親時による奉納が公式な形で記録された存在の証拠となっている。

参考資料と歴史的意義

親時の業績は、彼が生きていた時代における神職の在り方を反映している。神職者は祈りや祭祀行為だけでなく、地域の文化や信仰に影響を与える存在でもあった。彼が神道と仏教を融合させる活動を行ったことは、当時の宗教観や社会構造を理解する上で一つの鍵となる。

彼の歴史的な活動を確認する資料としては、大石泰史による「十五世紀後半の大宮司富士家」（『戦国史研究』第60号、2010年）や、宮地直一の『浅間神社の歴史』（古今書院、1929年）、そして富士宮市教育委員会による『元富士大宮司館跡』（2000年）などが挙げられる。これらの資料は、富士親時が果たした役割やその時代背景を知る手がかりになるだろう。

私たちにとって富士親時は、神職としての理想を体現し、地域社会に深く根ざした存在であった。また、彼の奉納は、単なる供物にとどまらず、富士山を神聖視する信仰の象徴ともいえるだろう。

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