富山高等学校 (旧制)

富山高等学校：激動の時代を生き抜いた旧制高校

1923年（大正12年）、富山県に設立された旧制富山高等学校は、地方における高等教育の進展に大きく貢献した学校として知られています。7年制の公立高校としてスタートし、尋常科（4年制）と、文科・理科に分かれた高等科（3年制）を設置。多くの生徒が地元・富山県出身者で、卒業後は県内で活躍する者が多かったことから、地域社会に密着した教育機関であったことが分かります。

創立の背景には、馬場はる氏による巨額な寄付金が大きく関わっています。当時の皇太子殿下（後の昭和天皇）のご成婚を記念し、100万円（現在の価値に換算すると100億円を超えると言われています）という莫大な寄付が、高校設立の原動力となりました。さらに、馬場氏は教官の海外留学費用や、ラフカディオ・ハーンのコレクションである「ヘルン文庫」の寄贈など、多大な貢献を果たしています。現在も、富山高校跡地には馬場はる氏の功績を称える像が建立されています。

設立当初は、校舎完成前に東岩瀬町立尋常小学校の校舎を仮校舎として使用していましたが、1925年には新校舎が完成し、移転しました。この蓮町校地は、戦時中の空襲にも耐え、廃校まで使用され続けた重要な場所です。その後、旧校地は富山大学文理学部キャンパスとなり、その後、五福キャンパスへの統合移転に伴い廃止され、現在は『馬場記念公園』として整備され、当時の面影を残しています。

学校の運営は、決して平坦ではありませんでした。1928年から1929年には、三・一五事件や四・一六事件に巻き込まれ、多くの学生が検挙される事態も発生。1930年には、学生による校長排斥運動が起こり、校長が退任に追い込まれるなど、激動の時代を反映した出来事が数多くありました。さらに、1932年には左翼活動に関与したとして多くの学生が処分され、学校運営は大きな困難に直面しました。

第二次世界大戦中は、1943年に官立に移管され、同時に尋常科の募集は停止されました。官立移管の背景には、富山県の財政難がありました。戦況の悪化に伴い、修業年限が短縮され、在校生の一部は学徒出陣によって学校を離れました。終戦後は、全校生徒が工場での勤労奉仕に従事し、1946年には最後の尋常科生が卒業し、富山県立高等学校は廃止されました。

1949年、旧制富山高等学校は新制富山大学に包括され「富山大学富山高等学校」と改称されましたが、1950年には廃止となりました。しかし、旧制富山高等学校で培われた教育理念や伝統は、富山大学に受け継がれ、現在も富山大学の教育活動に影響を与えていると言えるでしょう。

卒業生の中には、政治家、官僚、実業家、学者など、各界で活躍した著名な人物も多く輩出しています。彼らの功績は、旧制富山高等学校が、優れた人材育成に貢献した証と言えるでしょう。

旧制富山高等学校は、わずか20年ほどの歴史しかありませんでしたが、その間に培われた伝統や精神は、現在も富山大学、ひいては富山県全体の文化・社会に大きな影響を与え続けています。馬場はる氏からの多大な寄付金、激動の時代の中での学校運営、そして多くの優秀な人材育成など、その歴史は多くのドラマを含んでおり、日本の高等教育史における重要な一ページを刻んでいると言えるでしょう。

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