富沢車両基地

仙台市地下鉄南北線の運行を支える重要な拠点の一つが、仙台市太白区に位置する富沢車両基地です。仙台市交通局高速鉄道部が管轄するこの基地は、南北線で使用されるすべての車両が所属しており、日々の運行に不可欠な検査、整備、清掃などを担っています。富沢駅の南西に広がっており、駅からは専用の引き込み線を通じて車両の出し入れが行われています。南北線にとっては唯一無二の車両基地であり、安全かつ安定した運行体制を維持するための中心的な役割を果たしています。

この車両基地では、車両の機能維持と安全確保のために多岐にわたる業務が行われています。日常的な車両清掃や洗浄、走行性能に関わる車輪のメンテナンス（削正）はもちろんのこと、定期的な検査も実施されています。これには、比較的短期間で行われる列車検査や月検査から、より詳細な確認が必要な重要部検査や全般検査といった大規模な検査まで含まれます。これらの検査は、車両の状態を正確に把握し、不具合を未然に防ぐために極めて重要です。

富沢車両基地の運営体制には特徴があり、開設当初から多くの業務が外部に委託されています。特に、重要部検査や全般検査といった専門性の高い作業は、現在、JR東日本テクノロジーや仙台交通といった協力会社に委託されています。かつては交通局が直接行っていた列車検査や月検査、さらには夜間の故障対応といった業務についても、2010年からは仙台交通への委託へと切り替えられています。これにより、効率的かつ専門的なメンテナンス体制が構築されています。

車両基地としての歴史は、地下鉄南北線の開業に先立つ1985年に始まります。この開設当初は、まだ地下鉄路線が開通していなかったため、仙台港から陸路で搬入された車両は、基地内の線路を使って試運転が行われていました。そして、1987年 7月15日の南北線開業と同時に、富沢車両基地も本格的な運用を開始しました。その後、1996年には1000系の追加搬入が行われるなど、南北線の輸送力増強に合わせて基地の機能も拡充されてきました。

富沢車両基地の敷地は約8万8000平方メートルにおよび、その広大な敷地内には、総合事務所棟、工場棟、検査庫棟など、合計約2万6100平方メートルにわたる建物が建ち並んでいます。これらの施設は、様々な検査や整備作業に対応できるよう設計されています。将来的な計画では、最大で6両編成の車両を31本（合計186両）収容できる能力を持つとされていますが、現状はこれより少ない数の車両に対応しています。

構内には、富沢駅からの入出庫線を始めとして、複数の重要な施設が配置されています。約800メートルにわたる高架構造の入出庫線は、基地と本線を結ぶ唯一のルートです。また、基地から本線方向へ向かう引き上げ線も1線設けられています。構内の南側には試運転線（引き上げ線兼用）があり、東側には保線機械の格納庫であるトロリー庫やレール加工場があります。車両の留置に使われる留置線は8線、車両洗浄装置を備えた洗浄線は2線あります。車両の車輪を削って整形する車輪転削庫と車輪転削線も1線設置されています。主要な作業が行われる検査庫棟には、列車検査線が3線、月検査線が1線、入出場検査線が1線、臨時検査線が1線と、合計6線の検査線が備わっています。検査庫棟の向かい、東側には工場棟があり、部品の修理や加工などが行われています。

現在、富沢車両基地には仙台市交通局1000系電車が所属しており、4両編成の車両が21本配置されています。これらの車両が、南北線の日常的な旅客輸送を担っています。

仙台市電保存館

さらに、富沢車両基地の敷地内には、仙台の交通史に触れることができる仙台市電保存館が併設されています。1926年から1976年まで、半世紀にわたり仙台市民の足として親しまれた市電の歴史や姿を後世に伝えるため、1991年 4月25日に開館しました。館内では、実際に仙台の街を走っていた市電車両3両を始め、市電に関する様々な資料が展示されています。モーターや台車といった部品、当時の停留所標識や乗車券など、貴重な品々を見ることができます。また、ビデオ上映によって市電が活躍していた頃の様子を知ることも可能です。

保存されている主な車両は以下の3両です。

1号車（モハ1）：1925年製造の木造単車。1962年まで運行され、廃止後も修復されてお別れ運転を行いました。
123号車（モハ100）：1948年から1951年に製造された、仙台市電初の半鋼製ボギー車。当初の仕様からワンマン化などの改造を受け、廃止まで活躍しました。一部車両は長崎電気軌道に譲渡され、海外や仙台に戻った車両もあります。
415号車（モハ400）：1959年から1963年に製造された全鋼製ボギー車。当初からワンマン運転を考慮した設計で、廃止まで運用されました。この車両は最後に製造された番号であり、仙台市電にとって最後の新造車でもあります。

仙台市電保存館は、市民が気軽に立ち寄れる場所として、無料で公開されています。利用案内は以下の通りです。

休館日：月曜日（月曜日が祝日の場合は翌日）、祝日の翌日（土曜日、日曜日・祝日に当たる場合は開館）、年末年始（12月28日から翌年1月3日）
冬期間（12月1日から翌年3月19日）は土曜日、日曜日、祝日のみ開館
開館時間：午前10時～午後4時
* 入場料：無料

富沢車両基地は、地下鉄南北線の安全・安定輸送を支える心臓部であると同時に、仙台の鉄道の歴史を伝える市電保存館を擁する、市民にとっても関心の高い施設と言えるでしょう。

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