富田砕花

富田 砕花（とみた さいか）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の詩人であり歌人です。1890年11月15日に岩手県盛岡市で本名・戒治郎として生まれ、1984年10月17日に93歳でその生涯を閉じました。特に兵庫県芦屋市に移住してからの旺盛な詩作活動、とりわけ数多くの校歌や市町歌を作詞した功績から、「兵庫県文化の父」として親しまれています。

若い頃、富田砕花は日本大学の殖民科で学び、1902年に上京しました。同年12月からは会計検査院に勤務しています。文学の世界に足を踏み入れたのは1908年、与謝野寛と与謝野晶子が主宰する新詩社に加わったことがきっかけでした。ここで石川啄木とも出会い、共に歌会に参加するなど親交を深めます。砕花は啄木の思想に深く影響を受け、啄木の逝去に際しては追悼のエッセイを発表しています。

詩人・歌人としての活動は多岐にわたりました。1912年には最初の歌集となる『悲しき愛』を出版。また、この頃から海外文学の翻訳にも取り組み、アメリカの詩人ウォルト・ホイットマンの『草の葉』や、イギリスの詩人エドワード・カーペンターの詩集を日本に初めて紹介しました。これらの翻訳は、当時の日本の文学界に新たな風を吹き込むものとなりました。1915年には最初の詩集『末日頌』を刊行し、大正時代の詩壇において、福田正夫、白鳥省吾、百田宗治らとともに「民衆詩派」の代表的な詩人として認められるようになります。

1921年、富田砕花は兵庫県芦屋市に移住し、以後この地を拠点に活動を続けました。1931年頃からは、地域の学校から校歌の作詞依頼が寄せられるようになり、これを精力的に引き受けました。さらに、戦前の全国中等学校野球大会や日本体操大会といった大規模なイベントの行進歌や大会歌の作詞も手がけ、幅広い分野でその才能を発揮しました。彼の詩は、平易な言葉遣いの中に人間や自然への深い洞察、あるいは社会への眼差しを込めたものが多く、広く人々に受け入れられました。

晩年には、その長年の功績が認められました。1983年には地域文化振興文部大臣賞を受賞しています。ただし、1975年に日本現代詩人会から先達詩人表彰を受けた際には、これを辞退するという一面もありました。

1984年に心臓病のため逝去した後も、富田砕花の功績は忘れられることはありませんでした。彼の蔵書や遺品類は芦屋市に寄贈され、これを機に「富田砕花顕彰会」が発足しました。さらに1990年には、彼の名を冠した「富田砕花賞」が設立され、現代の詩人たちの活動を奨励しています。詩人の金子光晴は、砕花が紹介したアメリカのデモクラシー詩人たちの思想に自身が影響を受け、「耽美主義的、エゴイスチックな女性観が粉砕された」と回想しており、彼の翻訳活動が他の詩人にも与えた影響の大きさを物語っています。

主な著作には、歌集『悲しき愛』、詩集『末日頌』、『地の子』、訳詩集『草の葉』（ホイットマン）、『カアペンタア詩集』、芦屋移住後の詩集として『ひこばえのうた』、『兵庫讃歌』などがあります。現在、芦屋市には富田砕花旧居が顕彰施設として保存されており、彼の生涯と作品に触れることができます。

もう一度検索