王権神授説

王権神授説の概説

王権神授説とは、王が神によってその権限を授けられ、王は神に対してのみ責任を負うとする政治思想です。これは、人民や教皇、または他の権威による制限を受けずに王が権力を持つことを意味します。この思想は、特にヨーロッパにおける絶対王政の時代において広まり、王の統治の正当性を支持する基本となりました。

ヨーロッパにおける背景

王権神授説は、ローマ教会からの権威や影響力から独立し、国家の支配権を確立するための思想的根拠となりました。この考え方は、特にフランスのボダン、ボシュエ、イングランドのフィルマーといった思想家によって支持されました。彼らは、世俗的な権力の源泉が神に由来し、国王はその神聖なる役割を担っていると考えました。

教皇との関係

中世には、教皇の権威が強く、特に教皇ボニファティウス8世が発表した教皇勅書「唯一の、聖なる（Unam sanctam）」が注目されます。この教皇の命令は、教皇が世俗的な領域にも影響を持つことを根拠としたもので、王権の神聖性を挑戦するものでした。さらに、王は神から選ばれた存在として治癒能力を持つことが期待され、その実践が民衆によって強く支持されました。

王の霊威

イングランドやフランスにおいて、国王は特別な霊的権威を価値し、特に「瘰癧さわり」に見られるように、病気を治す力があるとされました。このような事例は、王が人民の苦痛を和らげる存在であったことを示しています。フランスのカペー朝やイングランドのプランタジネット朝では、王による瘰癧治癒の風習が盛んに行われ、特にヘンリー1世やエドワード懺悔王はその実践で知られています。

王権神授の提唱

このような思想の背景には、荘園経済から貨幣経済への移行とともに、新興市民階級の誕生があります。この時代の中で王権は、封建制度の中での権力基盤を築こうとし、絶対王政と呼ばれる体制を形成しました。王権神授説は、国王が神によってその権力を保持しているという主張を通じて、王の権威の正当性を強化しました。

特にイングランドのジェームズ1世やフランスのルイ14世など、歴史的な君主たちがこの考え方を強く支持し、ジェームズは著作『自由なる君主国の真の法』で王の権限を強調しました。

社会契約説の登場

しかし、17世紀になると、特に清教徒革命や名誉革命による政治変動の中で、王権神授説は揺らぐことになります。市民階級の勢力が増す中、トマス・ホッブズやジョン・ロックらは社会契約説を提唱し、国民の意志に基づく政治的正当性を訴えるようになりました。

結論

王権神授説は、歴史的に見ると、政府の運営や権力がどのように正当化されてきたかを理解する上で重要な概念です。その後の議会制度や市民意識の発展に影響を与えたことから、歴史学や政治学において重要な位置を占めています。

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