寺下紀子

寺下 紀子（てらした のりこ）氏は、1940年6月20日、東京都大田区に生まれ、現在は千葉県市川市に在住する日本の将棋の女流棋士です。特定の師匠を持たず、独自に将棋の道を究めてきました。

女流将棋界の歴史において、寺下氏は極めて重要な位置を占めています。1970年代、女性もプロとして将棋で活躍できる道を確立しようという動きが本格化し、1974年に待望の女流棋士制度が誕生しました。寺下氏は、この記念すべき制度のもとで認定されたわずか6名の第一期生の一人であり、プロとしてのキャリアを初段でスタートさせました。

特に歴史に名を刻む出来事として、女流棋士の公式戦として初めて行われた対局が、寺下氏の手によって指されたことが挙げられます。1974年10月31日、東京・千駄ヶ谷の将棋会館で行われた第1回女流名人位戦の予選において、寺下紀子初段（当時）と村山幸子初段の対局が、女流棋士公式戦の第1号局となりました。この対局は、将棋界における女性プロの新たな歴史の始まりを告げる一戦として、今なお語り継がれています。

寺下氏は、その第1回女流名人位戦で快進撃を見せました。予選を勝ち進み、決勝では関根紀代子二段（当時）と対戦。この対局は、相手の反則という珍しい結末ながらも寺下氏が勝利を収め、初代女流名人位の挑戦者となる権利を獲得しました。初代女流名人位決定戦では、同じく第一期生であり、先に三段となっていた蛸島彰子氏（当時三段）とタイトルを争いました。

プロ入り後、1974年10月31日に初段、同年11月には早くも二段へと昇段を果たしました。その後も女流棋士として活動を続けましたが、1985年、当時女流育成会で優秀な成績を収めていた新鋭、清水市代氏（後の清水市代女流六段）との入れ替え戦に敗れたことを機に、女流育成会への編入を拒否し、現役を引退する道を選びました。引退に伴い、女流三段に昇段しています。

引退後も将棋界との関わりは続き、1993年11月には女流四段へと昇段しました。そして2007年、日本将棋連盟から日本女子プロ将棋協会（LPSA）が独立した際、寺下氏は日本将棋連盟を退会し、LPSAへ移籍することを決断しました。LPSAにおいては、女流棋士番号4が付与され、現在では同協会に所属する棋士の中で最年長として、その豊富な経験と存在感を示しています。日本将棋連盟所属時の旧女流棋士番号は5でした。

将棋盤を離れた寺下氏の趣味は多岐にわたります。アクティブなゴルフを楽しむ一面がある一方で、静的な生花にも深い造詣を持ち、特に草月流では師範の腕前を持つほどです。これらの趣味からも、寺下氏の人間的な幅広さが伺えます。

寺下紀子氏は、女流棋士制度の創設という歴史的な瞬間に立ち会い、その第一歩を記した重要な人物です。第1号局を指し、初代女流名人位を争った経験は、黎明期の女流棋界の発展に貢献しました。現在もLPSAの最年長棋士として、後進を見守る存在であり、女流将棋界の生き証人として、その功績は語り継がれていくでしょう。

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