寺田寿男

寺田寿男：起業家から馬主へ、波瀾万丈の生涯

寺田寿男氏は、1945年大阪の下町に生まれました。幼少期から乗り物好きで知られ、自転車購入のためアルバイトに励むなど、並々ならぬ情熱を垣間見ることができます。私立興國商業高等学校在学中はオートバイに夢中になり、中退後はオートレース選手を目指して鈴鹿サーキットに通っていました。この頃、のちの妻となる千代乃さんと出会い、バイクの後ろに乗せていたというエピソードも残っています。

しかし、友人の事故死をきっかけにオートレースの道を断念。自動車へと興味の対象を移し、鋼材問屋のトラック運転手として働き始めます。そこで出会ったのが、のちにアートコーポレーションを築き上げる礎となる経験です。当時、インテリアショップで働いていた千代乃さんと共に貯蓄を重ね、20歳で日産スカイラインを購入。この経験が、彼の起業への道を拓くことになります。

1968年、寺田氏は井出商店の社長の後押しを受け、独立。寺田運輸（後のアートコーポレーション）を創業します。従来の固定給ではなく歩合制を導入するなど、斬新な人事戦略で若い従業員の信頼を獲得。さらに、車好きを生かし、トラックの改造によって積載量を増やすなど、着実な利益拡大に成功しました。

井出商店からの共同経営の誘いを断り、1971年には借金を完済。1972年には寺田運輸株式会社を設立し、自ら営業課長として現場に立つなど、実直な経営姿勢を貫きました。

転機が訪れたのは、雨の日にトラックが引っ越し荷物積んでいる光景を目撃した時でした。当時、引っ越しは運送業者の副業であり、作業の質は低く、顧客満足度も低いのが現状でした。寺田氏は、この現状に着目し、引っ越し業界への参入を決意します。

週末にのみ稼働する立石電機（後のオムロン）のアルミバンを借り、それを引っ越し専用車として塗装するというアイデアで、1977年6月、アート引越センター株式会社を設立。妻の千代乃氏を社長に任命し、女性の視点を取り入れたきめ細やかなサービスを提供することで、大きな成功を収めました。

「ドリームサルーン21」や「CAR CARRY21」など、数々の画期的なサービスを次々と生み出し、常に顧客満足度の向上を目指しました。また、発案したサービスにはすぐに実用新案権を取得する徹底ぶりで、競合他社の追随を許しませんでした。

寺田氏の経営手腕は高く評価され、数々の経営書でも取り上げられています。従業員の信頼獲得や顧客満足度の向上といったテーマは、多くの企業経営者にとって参考となるでしょう。2003年には、アートコーポレーションの成功を題材にしたテレビドラマ『あなたの人生お運びします!』が制作されるなど、その知名度は広く知れ渡りました。

しかし、2010年には、16歳の女子生徒に対し、東京都青少年健全育成条例違反（淫行）容疑で書類送検されるという事件を起こしました。この事件は、彼の輝かしい経営者としてのキャリアに大きな影を落とすことになりました。

一方で、寺田氏は日本中央競馬会（JRA）に登録する馬主としても知られています。勝負服は「白、青星散、袖赤一本輪」（2023年3月までは「白、青星散、白袖」）で、冠名を使用しないのが特徴です。妻の千代乃氏も馬主として活躍しており、数々の重賞勝ち馬を所有しています。

ムガムチュウ、レガーロ、ロイカバード、ハピ、アウトレンジなど、数々の名馬を所有し、その馬主としての活動も注目を集めています。

寺田寿男氏の生涯は、成功と挫折、そして光と影が複雑に絡み合った、波瀾万丈の物語です。彼の経営手腕や、人との出会い、そして起こした事件は、現代社会に多くの示唆を与えてくれるでしょう。

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