対日新思考

対日新思考とは

対日新思考とは、中華人民共和国における対日関係に関する思想の一つで、過去の歴史問題にとらわれず、より未来志向的な関係を築こうとする考え方です。この思想は、中国社会科学院日本研究所の初代所長である何方が1997年に発表した論文を先駆けとして、21世紀初頭の日中関係が冷え込む中で、中国国内の一部知識人の間で議論されるようになりました。

対日新思考の背景

21世紀初頭、日中関係は経済的な結びつきが深まる一方で、歴史認識や軍備増強、海洋進出などをめぐって両国間の溝は深まっていました。特に、歴史教科書問題や靖国神社参拝問題は、中国国民の反日感情を刺激し、両国関係を冷え込ませる要因となっていました。このような状況の中、中国の知識人たちは、過去の歴史にとらわれたままでは日中関係の未来は開けないという危機感を抱き始めました。彼らは、経済的な相互依存関係を重視し、地域全体の平和と発展を目標とする新たな対日観を模索し始めたのです。

対日新思考の提唱者たち

対日新思考の代表的な提唱者としては、以下のような人物が挙げられます。

馬立誠: 『人民日報』の論説員であった馬立誠は、2002年に発表した論文で、「日本の戦争謝罪は十分であり、日本が再び軍国主義になる心配はない」と主張しました。そして、これからは経済・市場において日本と競争すべきであると述べ、中国国内のナショナリズムや反日感情を批判しました。この論文は、中国国内で大きな反発を招きましたが、日本では新しい視点として注目されました。

時殷弘: 中国人民大学教授の時殷弘は、馬立誠に続いて論文を発表し、日中関係の新たな展開を提唱しました。ただし、馬立誠も時殷弘も、日本の事情に詳しい専門家ではありませんでした。

* 馮昭奎: 中国社会科学院研究員の馮昭奎は、2人の主張に呼応し、対日関係における国益の重要性を強調しました。彼は、「歴史の恨みにこだわるべきではなく、経済利益の維持を最優先とすべきだ」と述べ、地域平和の実現が使命であると訴えました。馮昭奎の主張は、馬立誠や時殷弘の考え方とは異なる部分もありますが、歴史問題を冷静に捉えようとする姿勢は共通しています。

対日新思考の現状と課題

対日新思考は、中国の経済成長や日中の相互依存関係の深化とともに、中国国内で一定の支持を得るようになりました。しかし、2005年の反日デモや尖閣諸島問題、東シナ海ガス田問題などに見られるように、日中両国の国民感情の間には依然として大きな溝が存在します。対日新思考は、中国国内においては一部知識人の多様な意見の一つに過ぎず、世論の主流にはなっていません。

また、馬立誠は、日中国交正常化45周年の2017年にも日本の雑誌に寄稿し、持論を展開しています。彼は、中国国内で批判を浴びる一方で、日本の侵略には明確に反対していると述べています。さらに、2020年には、過去の論文が温家宝首相や胡錦濤国家主席の訪日時の演説で参考にされたことや、訪日観光客の増加によって自身の考えが一定程度実現されたと主張しています。

一方で、馬立誠は、現在の習近平政権による日本重視の動きが、アメリカとの関係悪化を受けた戦略的なものである可能性も指摘しています。

まとめ

対日新思考は、歴史問題を乗り越え、より現実的かつ未来志向的な日中関係を構築しようとする試みです。この思想は、中国国内ではまだ少数意見ですが、今後の日中関係を考える上で重要な視点を提供しています。両国が過去の歴史にとらわれず、相互理解を深めることで、より良好な関係を築くことができるのか、今後の動向が注目されます。

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